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89]ご飯の味

 早乙女さおとめ家では今夜も家族が食卓を囲んでワイワイとにぎやかな食事をくり広げていた。あるじの早乙女 主水もんどは料理のシェフとしてマスコミに知られた有名人で、家族の者も、この点で早乙女には一目いちもく置いていた。当然、食卓にも早乙女の作った料理が週一で出た。家族の誰もがその日を楽しみにしていた。だが、この日にかぎって家族の反応は今一だった。

「今日は美味うまくなかったかな?」

 早乙女も食べていたから、そう不味まずいとも思えなかった。いや、むしろ今まで以上に美味うまく出来たように感じていた。ただ、早乙女は家族と違い、ご飯を食べていなかった。

「いえ、そうじゃないけど。お父さん…」

 娘の那緒がご飯の入った自分の茶碗を指で示した。早乙女は、ご飯をひと口食べ驚愕きょうがくした。今までに食べたことがないほど不味かった。

「どうしたんだ、これ!」

「今日ね、もらったお米をいたら、これ…」

 妻の万里江が小声で言った。

「刺客かっ!」

 早乙女は旗本風のさむらい言葉で返した。瞬間、家族にいつもの笑顔がもどった。早乙女は時折り、天下御免の旗本、早乙女主水之介ではない早乙女主水に変身するのだった。この変身ぶりはそう簡単には見られない。早乙女が興奮したとき、驚いたときなど数パターンに限られていたのである。そしてこの日、早乙女は変身したのである。一度変身すると、問題が解決するまで元には戻らないのが常だった。問題が解決するとは、時代劇風に言えば悪党どもが斬り倒され、一件落着するまでを意味した。

 次の日から早乙女の調査が開始された。結論は、手作りと機械作りの差・・と判明するまで半月余りを要した。八十八回の人手間と数回の機械手間の差・・ということらしい。よくよく考えれば、シェフということで、今まで機械が入らない山間地から取り寄せた棚田の特別生産米を食べていたのだ。早乙女は、こんな不味い米を食べている人々が哀れに思えた。そして、その日以降、シェフを辞め、身を暗ませた。今の自分では斬り倒せないと判断し、責任を取ったのである。四面楚歌しめんそかの早乙女は今、侍言葉で浪人生活を続けているということはなく、悠々自適とまではいかない老後の生活を家族と離れ、暮らしている。


                完

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