8]無毛寺(むもうじ)異聞
まあ、この話は、わしが話す戯言として聞き流してもらいたいんじゃがのう…。
いつの頃のことかは聞いておらぬが、とある村の一角に、それはそれは格式が高い無毛寺という寺があったそうな。格式が高いといえば、さぞ豪華で立派な寺だろう…と誰しも思うじゃろうが、さにあらず。その実態は荒れ果て、今にも崩れ落ちそうな荒れ寺だったという。ここで、かつてはこの寺にいた住職に纏わる話をしておかねばならぬじゃろうのう。というのも、この住職がいなくなったその原因へと繋がるからじゃ。
かつては、さる大名家の公には出来ぬご落胤として生まれたこの男は、遁世して各地を行脚した。そののち、かの地にて庵を結んで寺とし、無毛庵と名づけた。その庵は、実に貧相な庵だったそうな。男は出家し、名を増髪と号したと聞く。この増髪が説く話に教化された村の住民は増髪を崇め奉った。増髪の人となりは、次第に全国各地へと広がり、ついに生まれた大名家にも伝わった。その大名家はそのままには捨て置けぬ・・と、そこの村の山奥に密かに寺を建て、そこの住職に増髪を無理やり定めたそうな。ただ寺名だけは、無毛庵から無毛寺として認めたと聞く。この強いた一方的な行いが増髪の心を逆撫でした訳じゃな。増髪はある日、ふと消息を断ったという。早い話、行方をくらませたということになるかのう。寺の住職がいなければ寺は荒れる。いつの間にか、寺は、もののけが住まう奇っ怪な寺へと変貌をとげたんじゃそうな。気味が悪いと参る者もいなくなるわい。これは必然じゃ。寺はその後、荒れ放題となっていった。もののけとしては都合よくなった訳じゃな。無毛寺・・毛がなくなった頭は、無毛じゃわい。禿げた頭はよく光る。増髪が寺におらぬようになったのじゃから、それも必然ということになるかのう。無毛の寺、無毛寺に纏わる話じゃ。そんな話を、いつぞや聞いたわい。今、何か言うたか? …もう、聞かなんだことにして、忘れてくれんかのう。
完




