78]お呼びがかかる
蝉の鳴き音が弱くなり、そろそろ夏も終わりか…と東谷は思った。ということは、幽霊見習いの東谷にとって、一応、店じまいということになる。幽霊見習いとは、まだ幽霊と呼ぶには腕が未熟な駆け出しの霊のことをいう。そんな東谷だが、幽霊は暑いからお呼びがかかるのであり、寒くなればどういう訳か出番がなくなる。そうなると、最近の幽霊は生活の都合で、ハローワークへ姿を変えて出向くことになる。今はそんな世知辛い時代なのだ。
『あの…。もう少しひっそりとした静かな仕事は?』
今日も東谷の姿がハローワークにあった。
「この前も言いましたがね。そんな都合のいい仕事なんかあり…んっ? まあ、ないこともないですがね」
『そ、それお願いします』
ニートの青年に乗り移った幽霊見習いの東谷は、係員へ返した。
_「いいんですか? 安いし陰気な仕事ですよ?」
『そ、それがいいんです!』
東谷にしては強めに言った。それでも、この世の人の半分程度の声である。
「変わった人だ…これなんですがね」
呆れた顔でハローワークの担当係員は東谷の蒼白い顔を窺いながらファイルを見せた。
『倉庫の見張り番ですか?』
「はい…らしいんですがね。今どき、警備会社を頼んだらいいんですがね。まあ、小さなお店ですから分からなくもない。…どうします?」
『はい、よろしくお願いします』
「私に頼まれても…。先方には連絡しておきますので…」
話は首尾よく纏まり、安いお足でお呼びがかかった幽霊見習いの東谷は、さっそくその中田屋の倉庫で働くことになった。
その倉庫には陰気な幽霊が住んでいて、東谷は今、倉庫で幽霊の勉強をみっちりと仕込まれている。お足がいらないだけに、東谷にとっては一石二鳥となっている。むろん、幽霊見習いの東屋にお足はいらない訳で、働いたアルバイト代は乗り移った青年に入るという勘定だ。
完




