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77]お焦(こ)げ化け

 昭和30年代、日本が復興しようとしていた頃の話である。

 その当時、小学生の私は片田舎かたいなかの山村で暮らしていた。年の離れた兄は都会の叔父の所へ下宿させてもらい、今でも超有名な一流大学に通っていた。もう一人の妹は3才下で、私の手下として私につかえていた。そう思ったのは、その頃の私の子供感覚で、妹はどう思っていたかは知らない。

 父は村役場に勤務していたから、母もそう苦労はしていなかったように思う。というのも、物資不足の頃だったが、父の仕事の関係でお世話になったとかで結構、農家の方が野菜や牛乳、卵などを持ってきて下さったからだった。

 そんなある日の朝、母はかまどで火吹き竹を吹きながらご飯をいていた。私と妹は、いつものように炊きあがるのを待っていた。炊きあがりを待っていると、母は炊きあがったおかまのご飯を木のおひつに移しかえたあと、残ったご飯でお握りを作ってくれた。私と妹の順序は決まっていて、妹が先で私があとだった。これにもちゃんとした理由がある。私は香ばしい香りと味がするおげが好きで一番最後のお釜にこびりついたご飯で握ってもらうのを楽しみにしていたからだ。むろん妹も同じだったから、勉強部屋の掃除を条件に何度も変わってやった。まあ、ここまでの話なら誰もがする想い出話なのだが、私の場合はここからが少し違うのだ。

 夜も遅くなって、夕食後のラジオ[当時はまだテレビがなかった]を聴くと7時半頃には寝ていたと思う。今のような楽しみが少ない時代で、日が高い日中を大事にしていたようだ。皆が寝静まった夜更け、その異変は起きた。お焦げ化けが竃から現れたのである。どういう訳か寝たはずの私は空腹で眠れず、竃のある土間どまに立っていた。竃から現れたお焦げ化けは、大きなお握りのような形をしており、ドッカと板間に腰を下ろした。香ばしいあのお焦げのいい香りをさせ、湯気ゆげをユラユラとのぼらせていたのを思い出す。そのお焦げ化けには目鼻がついていて、どこか妹にも似ていた。今考えれば、それがなんとも不思議なのだが、私は茫然とそのお焦げ化けを見つめるだけだった。さすがに怖かったせいか、食べようとは思わなかったのだろう。そして、そのまま私は部屋に戻り、眠った。そして朝になったのだが、その記憶は鮮明に残っていて、いつも見る夢とは明らかに違ったのだ。今でも、あのお焦げ化けの姿ははっきりと覚えている。だから、お焦げ化けは今も現実にいるはずである。

 まあそんな馬鹿馬鹿しいお話なのだが、お焦げ化けが出るには一つの条件があるようで、かなりお腹が空いていないと現れないみたいだ。


                 完

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