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7]双六(すごろく)

 夏のある日、古い土蔵どぞうを整理していた村川は偶然、収納されていた古い双六すごろくを見つけた。今や、テレビゲーム、アプリ全盛の時代である。こんな時代 おくれの遊びを今の子供がする訳がない…とは思えたが、余りのなつかしさからか、村川はそのまま家へ双六を持ち込んだ。

 蝉しぐれがやかましくひびくなか、村川は昼寝のあと、何げなく持ち込んだ双六を開けてみた。双六の紙はきちんと折りたたまれ、中には古びたサイコロが一つ、何も書かれていない木駒が一つ入っていた。

「えらく古い時代モノだな…」

 村川はカビ臭い紙に書かれた模様をながめながら文字を追って読んだ。

「なになに? 一、二、三? …なんだ、ダセェ~な。ひのふのみーかよ。今どき似合わねぇ~~! 今の時代、1(ワン)、2(ツー)、3(スリー)だろ?」

 村川はそう言いながら興味がなくなった紙を元のように包もうとした。そのときだった。紙に書かれた和数字が算用数字に変化した。村川は思わず自分の目を疑った。だが何度見ても、書かれた数字は最初の数字とは違っていた。俺は疲れてるんだ…と村川は思うことにした。そうしないと少しこわかった。紙をくわしく読むと、中央にやや大きめの平仮名で、[ひとのよ・すごろく]とあった。村川の興味が復活した。

「やってやろうじゃねぇ~か」

 ニタリと笑うと、村川はサイコロを振った。目は●が五つだった。

「5か…」

 村川は木駒を五つ進めた。

「ほお~、[しゅうげん]か…、これはお目出てぇ~な」

 そのとき不意に、見目麗みめうるわしい時代劇風の娘が、村川の前へ白無垢しろむくの着物姿で浮かび出た。娘は三つ指をついて村川にお辞儀をした。

いく久しゅう、よろしゅうお願い申し上げまするぅ~」

 一瞬、村川は驚きの余り仰天して逃げ出そうとしたが、思いとどまって振り向いた。娘は、村川にお辞儀したままの姿勢で存在していた。

「ははぁ~!」

 村川は思わずそう言っていた。村川はもう一度、娘を見た。娘は姿勢を崩さず、お辞儀したまま氷結したように動かなかった。村川は娘の着物に触れてみた。着物は氷のようにてついていた。怖くなった村川はサイコロをあわてて振った。目は●が四つだった。村川は木駒を急いで四つ進めた。[りえん]とあった。その途端、娘は跡形あとかたもなく消えせた。

「なんだよ、喜ばせてっ!」

 少し怒りながら村川はサイコロをまた振った。目は●が六つだった。村川は、そそくさと木駒を進めた。[をのこ]とあった。その途端、先ほどの美形の娘が所帯じみた着物姿で赤ん坊をあやしながら浮かび出た。

「もう、こんなに大きゅうなって…」

 我が子に視線を向けて笑ってはいるが、いっこうに村川を見る気配けはいはなく、そのままあやし続けている。同じ動作を繰り返しているだけなのだ。

「やめたやめたっ!」

 村川は部屋を出ようと立ち上がったが、足はこおりついたように動かなかった。村川はゾクッ! と背筋が寒くなり、座り直すとまたサイコロを振っていた。目は●が、また六つだった。村川が木駒を進めると、[はか]と書かれていた。そのとき、村川は急に息苦しくなって記憶が途絶えた。

 ふと、気づくと、村川は土蔵の中で、崩れた本の山に首の下すべてうずもれ眠っていた。息苦しかったのは、崩れた本のせいだった。村川は、夢だったか…と思った。本の前には、決して美形ではない古女房が、あきてた顔で立っていた。村川は夢であってくれ…と願い、まぶたを閉ざした。


                     完

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