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69]無人バス

 そう…あれは夏の終わりが近い、ちょうど今頃の季節だった。今思い返しても背筋が寒くなるが、やはり語っておかねばならないだろう。えっ? 別に語らなくてもいいって? いやいやいや、これは語っておいた方がいいだろう。

 あの日、私は勤務を終え、いつものように停留所で帰りのバスを待っていた。まだ、ムッとする残暑が肌にからむ嫌な気候だったのをおぼえている。その日にかぎって待っていたのは私一人で、それも今から思えばおかしいといえば怪しかったが、そのときはそうも思わなかった。

 乗る予定のワンマンカーのバスは少し遅れでやって来た。私が乗り込むと、さも当たり前のように、無言で発車した。

『次は蝦蟇口がまぐち、蝦蟇口でございます』

 しぱらくすると、いつもの女性の案内テープの声が流暢りゅうちょうに流れた。取り分けてなにも変わったところはなかった。ただ、誰も乗客がいないのが妙といえば妙だったが、こういう日もあるさ…と私は深く考えなかった。ところが、である。ふと、運転席に視線を走らせたとき、私はゾォ~っとした。その恐怖の感覚は今でもしっかり記憶している。運転席には誰もいなかった。当然それは、ハンドルだけが右に左にと回っていたことを意味する。気がつけば私は思わず座席から立っていた。そのまま私は前の乗降口の方へ移動した。そして運転席を見た。信じられない現象が、まさに起きていた。私は落ちつこう…と心に念じながら前の座席へ腰を下ろした。すると、急に運転席に運転手が現れた。私は、やれやれ…と思った。が、しかし…。

『お客さん、もうじき、蝦蟇口ですよっ!』

 振り返った運転手の顔は、人間ではなく蝦蟇蛙だった。私は気を失った。

 気づくと私はバスに揺られていた。運転手も当然、人間の姿で運転していて、いなかったはずの乗客も数人いた。

『次は蝦蟇口がまぐち、蝦蟇口でございます』

 二度目の案内テープの声がした。夢を見たのだろう…と私は思った。そう思わなければ怪談である。

 私は停留所で下りた。あたりはすでに宵闇よいやみで、蝦蟇蛙が鳴く声がした。あなたが信じようが信じまいが、これは嘘のようで本当の話である。


                   完

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