68]身から出た削(けず)り屑(くず)
この話もかなり時代が遡る。例によって、眠くなった人は眠ってもらっても、いっこう構わない。
常盤長屋に桶職人の小吉という若者が住んでいた。器量の方はそうでもなかったそうだが、これがなかなかの働き者で腕がいいときたものだから、風呂桶、棺桶、漬け物桶、さらには洗い桶から防水桶と、桶ならなんでもござれで、えらく皆から重宝された。そこへ、どんな注文にも応じたというから、寝る間もないほど忙しく、繁盛もしたらしい。
あるとき、これという欲もない小吉が風呂屋に桶を届けた帰り、懐が少し重くなったものだから、久しぶりに好物の鰻で一杯やりながら精をつけるか…などと調子のいいことを思いつつ柳小路を歩いていたと思いなよ。夏の日に聞く柳といやぁ~幽霊だが、小吉が出食わした幽霊には正真正銘の足があったから当然、怖くはなく、おどろおどろしいとも思えなかった。年の頃なら17、8の可愛いおぼこというんだから、これはもう男としては堪らねぇ。若い小吉も例外ではなく、まあそういう世間並みの話になっていったという。となれば、逢瀬も二度三度、さらには…となるのが筋というものだが、あの世の者とこの世の者がそんな逢瀬を重ねれば・・男が言わずもがなで衰弱する・・と怪談 噺ではしたものだ。で、当然、小吉もそうなった。小吉の場合は身から出た錆というよりは削り屑で、自分が作った棺桶に入り、あの世で幸せに暮らしたという。まあ、あの世もこの世もその程度らしい。真偽のほどは、あっしにも分からねぇ。
完




