66]夢の宴(うたげ)
いや、たまにはこうして同窓生と破目を外すのもいいものだ…と、今年で古希を迎えた毛皮は思った。正直なところ毛皮はこの手の集まりが苦手で、今まで一度も同窓会へ出たことがなかったのだ。それが、行ってみよう…と思ったのには理由がある。古希になったという、心中に何か今までとは違う人間にでもなったような気分が芽生えたからだった。
「おう! …皮剥だったな、確か…」
「毛皮か…。昔と変わらんな!」
「ははは…そういうお前も変わらんぞ」
こんな話を出席者十数人と繰り返すうちに、賑やかな酒宴となった。酒もある程度回り、カラオケも歌われるようになる頃、毛皮はふと、ある一つのことに気づいた。出席者全員が年老いていないのである。というより、まったくあの頃と同じように思えた。初めは、ははは…そんなことはない! 酒のせいだ…と毛皮は思ったが、時間が進むにしたがってその小さな疑問は大きくなっていった。さらによくメンバーを見れば、酒が回って酔っているのは自分だけで、あとの者はまったく酔っていなかったのである。そんな馬鹿なことはない! 目の錯覚だっ! と杯の冷えた酒をグビリと喉へ通し、毛皮は勢いをつけて言った。
「よしっ! 俺も歌うぞっ! ♪○○○♪だっ! 寒着」
それまで笑いながら選曲入れをしていたカラオケ係の寒着の顔が一瞬、凍ったように冷えた。見れば、他の同窓生達の顔も冷えている。
「♪○○○♪だよ、あるだろ?」
寒着の返答はなかった。
「…ないなら、いいぞ」
ないのか…しかし怪しいぞ? と毛皮が気づいたのは、それから5分後だった。そういえば皆、あの頃の曲ばかり歌っている…と。それでも時は流れ、会は何ごともなく無事終わった。帰りの地下鉄に揺られながら、毛皮は全員が若かった理由を考えた。結局、疑問はうやむやになり、それから3日が流れた。
「えっ! そんな馬鹿な! 皮剥さんにお出会いしたのは3日前ですよ」
『いえ、主人は2年前に亡くなっております』
写した写真を送るため、住所を確認しようと電話を入れると、皮剥の妻は毛皮にそう話した。そんな馬鹿な…と思ったとき、毛皮の意識は遠退いていった。
気づけば、毛皮は仏壇の前で眠っていた。お盆で木魚を叩いていて眠くなったようだ。同窓会は明日だった。夢を思い返せば、出席したメンバーは全員、逝っていた。なんだ…全員、夢で逢いに来たのか…と毛皮は思いながら仏間を出た。仏壇の隅に♪○○○♪のCDが置いてあったことを毛皮は知らない。
完
※ ♪○○○♪は個人差があります。^^ お好きな曲をどうぞ。




