65]賑(にぎ)わう街
山岩が住む村から2Kmばかり離れた所にある小坂町の商店街は、ここ最近、めっきり客足が落ち、廃墟のような様相を呈していた。とくに夜の有りさまは深刻で、陰鬱この上ない不気味さを醸し出していた。先だって山岩が必要品を買いに出たとき、すでにその品を売っていた店はシャッターを下ろし、店はやっていなかった。通りを通る人もまばらどころか、ほぼ皆無で、昼間でよかったぞ…と山岩を思わせたくらいだった。
そんなある日の夜、山岩は仕事の都合で夜遅くなり、車で帰路を急いでいた。辺りは漆黒の闇でヘッドライトに照らされた前方以外、何も見えない。残暑はまだ残っていて、夜だったが嫌な汗が身体に纏わりついていた。そんな中、しばらく車を走らせていると、あの廃墟の記憶がある小坂町の商店街が近づいてきた。陰気でひっそりしてるんだろうな…と山岩が思っていると、不思議なことに商店街には灯りが輝き、賑やかな人の気配がするではないか。山岩は訝しく思いながら、とりあえず近くの畔道に車を停め、降りることにした。車を閉じ、商店街に近づくと、やはりごった返す人の気配がした。だが、灯りが灯っているだけで人の姿はない。なのに、街路に人が通り過ぎる音や会話する音がはっきりと山岩の耳に聞こえるのだった。山岩は少し怖くなった。君子、危うきに近寄らず、だな…と、山岩は車へ小走りに走り、エンジンを静かに始動した。
なんのことはない。商店街は映画の撮影で使われ、スタッフや出演者全員は、商店街で僅かに一軒残っている店の中へ撤収して休憩中だったのである。
その次の日、山岩は小坂の商店街で幽霊を見たぞ・・と法螺を吹き始めた。幽霊が出るという噂は村ですぐに広まった。噂は映画が封切られ、すぐ消えた。理由はお分かりだろう。
現在、山岩は村で小さくなって生きているという。
完




