57]計算づく
垣内は、居間で相手会社と折衝する明日の対応を、いろいろと算段していた。
━ 相手会社は恐らくコウ言うだろう…。とすれば、その裏をかいてアア言うか。いや、アア言うことを、もはや相手は読み切っているということも考えられる。なら、アア言うのは危険だ。やはりナニと言うしかないか。いやいや、ナニと言うのは返って相手に口実を与えることになる…。では? ━
とりとめもなく考えると、すでに猛暑が復活する時間になっていた。正確には残暑なのだが、これがどうしてどうして、なかなか侮れない。先だっても、友人が熱中症で畑で倒れ、病院へ担ぎ込まれたという話題が町内で飛び交ったくらいだ。だからこの時間からは出られない。それもこれも、計算づくで考えたせいだ。計算づくは時間がかかり過ぎる…と垣内はすっかりやる気を失った。
もう昼が近かった。垣内は素麺を湯がくことにした。冷やした素麺は冷やつゆでスルスルっと食べると美味いが、計算づくの算段はちっとも美味くない…と訳が分からないことで腹が立つ垣内だった。しばらくして、氷水で冷やされた素麺はすべて垣内の体内へ収納された。出たとこ勝負にするか…と、腹が満ちたこともあり、少し計算づくが馬鹿らしくなった垣内は、鷹揚に構えることにした。
次の日である。
「あの…垣内ですが…」
垣内は計算づくで対応を考えた相手会社を訪ねていた。
「…はあ、やはりこの価格になりますか?」
垣内は意味深に確認した。価格を下げよ! と言っている訳ではなかった。
「はあ、まあ…」
相手会社の係員も計算づくで、返答を暈した。
「どうしても、ですか…」
「はあ、どうしてもです…」
二人は見積書を広げたまま、対峙し、数時間が過ぎた。両者の額に汗が滲んだ。夕闇が辺りを覆い始めた。怖いことに、計算づくは時間がかかるのだった。
完




