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54]わっさわっさ

 世の中には不思議なこともあるものだ。夏の終わりが近づいたことを告げる夕立ちが幾度となく降り続くようになったある日曜の朝、尾山は玄関で靴をみがいていた。明日の勤めに備えてだが、最近磨いてなかったことを、ふと起きがけに思い出したのだ。思ったことはすぐにやらないと気が済まない性分しょうぶんの尾山だったから、磨き出した・・という訳だ。

「あら? 早いわね…何してるの?」

 妻の智香ちかが台所から現れ、たずねた。

「見てのとおりさ」

「ふ~ん…」

 なく智香は台所へUターンした。十年もてばこんなものか…と、尾山は新婚時代の蜜月を思い出し、ふ~う…と深い溜息ためいきを一ついた。そのときである。尾山は持った片方の靴が幾らか重くなったように感じた。おやっ? と思った尾山はブラシを置くと、片手を靴の中へ入れてみた。すると、何か手ごたえがある。尾山はその手ごたえを指でつかむと出してみた。見るとピカピカと黄金こがね色に輝くズッシリと重い小さな金塊きんかいだった。んっな馬鹿な! と尾山はジィ~っとその金塊を見続けた。やはり、金塊のようだった。手にした靴は、まだ重い。尾山は金塊を上がりかまちへ置くと、また手を靴の中へ入れた。そして出すとまた金塊が現れた。そしてまた…。このくり返しが続き、わっさわっさと金塊が湯水のごとく現れたのである。尾山は夢だ! と思え、こわくなった。

「お~~い! 智香!」

 尾山は大声を出していた。

「なに?!」

 怒り口調で智香がまた現れた。

「これ…」

「えっ? 靴がどうかしたの?」

 わっさわっさといた金塊は消え、靴は軽くなっていた。

「いや、なんでもない…」

 旋毛つむじを曲げ、智香はふたたび台所へUターンした。

「ははは…そんな馬鹿なことはないよな!」

 靴箱へ磨き道具と靴を入れ、尾山は框を上がり台所へ入った。台所ではわっさわっさと五人の子供がにぎやかに朝食を食べていた。尾山はこれでいい…と思った。


                  完

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