53]傘化(かさば)け
昔々(むかしむかし)、あるところに傘化けという不思議な妖怪がいたそうじゃ。その妖怪は奇妙なことに来る日も来る日も、山裾の登山口で傘をさして立っておったという。それがなぜなのかは誰も分からんかった。というのも、立っておるだけで別に悪さをする風でもなかったからじゃ。ただ、通りかかった者に化け、しばらく山道をあとからついて突然、消える・・という風変わりな妖怪じゃった。
ある日のこと、権助という村の百姓が山へ入ろうと通りかかった。その日も、さも当然のように傘化けは権助の姿で傘をさして立っておった。それがどういう訳か、権助には心なしか寂しそうに見えたという。おう立っておるのう…と、権助は遠目に見て思いながら、気づかぬ態で登り始めた。すると、権助に化けた傘化けは後ろをついてきたそうな。
「どうかしたのけ?」
思わず権助は訊ねてしもうた。その途端、声に驚いた権助に化けた傘化けは姿を消した。なんだ人騒がせな…と権助は思いながら山道へ入ろうとした。すると、どこからともなく子供の声がした。権助は耳を澄ました。
『新しい傘をくれぇ~新しい傘をくれぇ~』
権助にはそう聞こえたそうじゃ。何のことか初めは分からんかった権助じゃったが、ふと見ると広げられた破れた番傘が近くに見えてのう、訳が分かったんじゃそうな。権助は次の日の朝、新しい番傘を持って山裾まで行き、置いて帰った。その日以降、権助によいことづくめの日々が続いたという。傘のお礼ということなんじゃろう…と、村の衆は話しておった。味をしめようと別の百姓が傘化けに山へ登る訳でもなく近づいた。
『なにか妖怪?』
傘化けの方がダジャレで先に訊ねたそうな。そうは問屋が卸さぬ・・ということかのう。
完




