52]太る足
那美は高校1年生である。今年の夏もようやく終盤へさしかかろうとしていたある日、部活を終えて帰宅した那美はどういう訳か落ち込んでいた。
「どうした? 那美」
父親の森崎が、ふと居間に現れ、テンションが下がった那美に声をかけた。
「この足、見てよ」
見るからに美味そうな大根足が2本、よく育っていた。
「その足がどうかしたか?」
那美の言いたいことは大よそ分かってはいたが、あえて森崎は分からぬ態で返した。
「…見りゃ、分かるでしょ!」
那美は旋毛を曲げ、怒り口調で自室へと去った。
「ああ、女はよく分からん。怖い怖い…」
森崎は小声で独りごちた。
夏休み前まではスンナリ細めだった那美の足がスクスクと育ち始めたのは、あることを境にしてだった。そのことは、那美も分かっていたし、森崎も当然、知っていた。ただ、そのことと足が太くなったという間連が、どうしても分からなかった。そのこととは流し素麺である。那美がその日の前日、無性に素麺が食べたくなったと言うので、それじゃ明日、流し素麺をしようじゃないか・・と家族で話が纏まったのである。
流し素麺は家族全員で賑やかに終わったが、その次の日から那美の足に異変が起き始めたのである。異変が起きたのは、どういう訳か家族で那美だけだった。流し素麺でそうなった…などと家族の他の者は冗談にも思えなかったから、一度、病院で診てもらうよう那美に促した。那美も年頃で気になったのか、病院で診察を受けた。
「べつに悪いところはないですがね…」
検査結果を見ながら医者が訝しそうに言った。流し素麺で考えられるとすれば、那美が麺つゆに大根おろしを混ぜたくらいなのだ。それ以外にはなにもなかった。
この謎は、今も解き明かされてはいない。森崎は訳あり大根の祟りでは? と考えている。
完




