48]最終列車
白水駅の構内へ走り込んだ途端、列車が発車する警笛音がし、野辺は、しまった! と思った。僅か数分、間にあわず、列車に乗り遅れたに違いなかった。まあ、それでも最終列車がまだある…と、この時点の野辺は、そうは悲観していなかった。
「確か11時40分だったな…」
野辺はそう呟きながら腕を見た。まだ、30分ばかりあった。まあ、ゆっくりしよう…と野辺は疲れ切った身体をベンチへ沈めた。そして徐に改札口に視線を走らせた。改札口の上には次の到着列車の時刻を示す電光掲示板が掲げられている。野辺はそのとき、ぼんやりと、んっ? と思った。電光掲示板には[普通 11時40分 2]と、表示があるはずだったが、それが[普通 6時05分 2]の表示になっているのである。野辺は見間違えたか…と目を擦った。だがやはり、改札口の電光掲示板は、[普通 6時05分 2]を示していた。
「あの… 最終は来ますよね?」
不安に思えた野辺はベンチを立つと切符売り場の駅長に訊ねていた。
「えっ!? 最終はもう出ましたよ。私も、そろそろ戸締りをして帰るところです」
「ええ~~っ!!」
「すみませんな。月替わりの昨日から、一本、早くなったんですわ」
あんたに謝られても…と、野辺は憤懣をぶつける場がなかった。とはいえ、こうしていても列車が朝まで来ないことは明白なのだ。野辺は、さて、どうしたものか…と、ふたたびベンチへ弱く座った。
「それじゃ、私はこれで…。お疲れの出ませんように」
紋切り型の言葉で駅長に敬礼され、野辺は少し嫌味を感じた。
駅長が去ったあと、無人となった田舎の駅は物音一つしなくなった。夏の終わりのせいか、野辺の耳に虫の集く声が聞こえた。
しばらく、どうしたものか…と野辺は巡った。宿に戻ったとして、果たして宿がまだ開いているか? が問題だった。そのとき、遠くから列車が近づく警笛音が微かにした。野辺は、そんな馬鹿な…と、自分の耳を疑った。だが、ふたたび音が次第に近づいて聞こえ、列車はホームへ静かに流れながら入ってきた。これは? と野辺は首を傾げた。やがて列車はゆっくりと止まり、アナウンスが流れた。
『2番線に到着した列車は、白水11時35分着、11時40分発の梅花行きです』
なぜ到着したのか理由は分からなかったが、紛れもなく最終列車だっ! と野辺は感じ、ベンチを立とうとした。そのとき目眩がし、野辺の意識は遠退いた。
気づけば、野辺は道の上で倒れていた。どうも、駅へ急ぐ途中で転び、軽く頭を打って気絶したように思えた。
白水駅の構内へ駆け込むと、電光掲示板に[普通 11時40分 2]の文字が見えた。野辺は改札口の前までフラフラ…と近づき、万歳を繰り返した。駅長は意味が分からず、訝しげにそんな野辺を眺め、万歳を付き合った。
完




