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47]帰ろう…

 残暑が続くなか、日没が早まっていた。半月ほど前は7時過ぎだった日暮れが、今ではもう6時半ばには暗くなり始めている。木工店を営む剣持は、暗くなる前に帰ろう…と無意識に思い、仕事を終わることにした。作業場を兼ねた店から剣持の家まで自転車で約20分はかかり、日々、作業場と家を行き来していた。木彫り職人とは聞こえがよいが、早い話、売れなければ暮らしてはいけない。日に客足は数人で、せいぜい数千円の稼ぎでしかなかった。それでも、作品を生み出すことに生き甲斐を抱く剣持に、不満など一切なかった。

「さてと…」

 木彫り用ののみを道具箱へもどすと、剣持は重い腰を上げようとした。いつもならスンナリ立ち、土間へ下りるのだが、この日にかぎって、どういう訳か両足が動かなかった。それも、まるで金縛かなしばりにあったかのように一歩も動けないのである。抜き差しならない・・とは、このことか…と剣持は思った。両足の感覚はまったく失せ、まるで自分の身体からだではないように無感覚である。剣持はあせった。だが両足はてついたようにビクともしなかった。次第に冷や汗も流れ始めた。どこか身体の具合が悪くなったか…と、そんな不安も心をかすめた。剣持は冷静になろうと、動こうとする気持をやめ、両目を閉ざした。そうだ! もとの姿勢に戻してみよう…とひらめいた剣持は、しゃがみこもうとした。すると妙なもので、身体は少しずつ動くではないか。よし! とばかりに剣持は、ゆっくりと元の座っていた場へ腰を下ろした。そこは木のけずくずが散らばる剣持が座り馴れた作業の場だ。動けない不安はどういう訳か剣持の心から消え去った。ただ、帰ろう…という気持にはなった。親戚から送られたブランド牛の特製ステーキを食べるまでは死ねない…と剣持は思ったからだ。不思議なことに、美味うまそうなステーキが焼き上がる映像が心に浮かんだ次の瞬間、剣持の身体は、ものすごい早さで動くと、作業場を飛び出していた。立ち去ったあとには、剣持が彫った木彫りのステーキが一枚、美味そうに置かれていた。不思議なことに、その木彫りのステーキは、肉の焼けたジューシーないいにおいがした。


                 完

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