46]足音
残暑が続くある日、砂海は珍しく掃除をしていた。砂海が掃除をしよう…などと思うのは、一年に一度、それも大晦日が近づいて正月を迎える前くらいだった。それも世間態が悪いとかいう常識的な感覚ではなく、まあ、年も改まるのだから、少し片づけておこう…という十数分を予定するくらいのものなのだ。当然、そんな砂海の家は埃が舞い飛ぶ状態だった。暑気払いでパタパタと団扇を扇げば、粉のような埃が舞い飛ぶ様子が、窓から射しこむ光の帯の中にはっきりと捉えられ、砂海の目に映った。だが、そんなことで砂海は動じなかった。
「今日も蒸すなぁ…」
汗をタオルで拭きながら、砂海は独りごちた。そのときぺチャぺチャぺチャ…と家へ近づくこの世のものとは思えない不気味な足音がした。砂海は、なにが来た? と怖くなった。ところが、いっこうに玄関前のチャイムを押す気配がない。砂海は、はて? と、訝しく思った。郵便や牛乳、新聞の類なら分からないでもない。だがその気配とは明らかに異質だった。
「妙だ?…」
砂海は首を傾げて玄関へ向かった。砂海は玄関を下り、ドアを開けたが、外には誰もいなかった。砂海はなんだ…とばかりに、馬鹿らしく自室へ戻った。すると、しばらくして、ぺチャぺチャぺチャ…とまた、不気味な音が近づき、止まった。またか! と少し怒れた砂海だったが、それでも一応…とばかりに重い腰を上げ、玄関へ向かった。が、やはり誰もいなかった。もう、いい! とばかりに砂海が怒りを露わにして戻ろうとしたときだった。
「あのう…」
玄関の外で、か細い声が小さくした。砂海はギクリ! とした。幸いにも外はまだ夕方の明るさだったから、怖さはそれほどでもなかったが、不気味なことに変わりはなかった。
「はい、どなたで?」
砂海は怖々(こわごわ)、声をかけた。
「前を通りかかった者ですが、靴底の皮が取れまして難儀しております。この辺りに靴屋さんは?」
怪談ではなく、皮談だった。
完




