45]招待状
町川は朝の起きがけに新聞と郵便を取りに玄関を下りた。新聞はいつものものが新聞受けに入っていたから取り分けてどうということもなかったが、郵便は少し違った。町川は一瞬、おやっ? と思いながら、入っていた封書を手にした。表書きは妙なことに町川の氏名だけで、切手の消印以外、これといった手がかりがなかった。町村は玄関を上がりながら封を破った。中には一枚の紙が入っており、{招待状}と縦書きされていた。心当たりがない招待状だけに、町川は首を捻った。
「…なんだったか?」
町川は居間の畳に置かれた座布団へどっしりと座り、長机の上で紙の裏を見た。裏には不思議な紋様が片隅に見えるだけで、まったく意味不明だった。気になった町川はその日から、パソコンの検索や図書館の書籍で調べたが、ついにその紋様の意味を解読することは出来なかった。町川には、なぜかその紋様が不吉に思えた。氏名と消印だけで届いたという奇妙な封書の謎が、町川を余計にそう思わせた。
そうこうして半月ばかりが経った。夏の暑気がまだ残る夕方、町川は買い物帰りの路上で、客待ちで座っている易占いに偶然、遭遇した。そのとき、町川はふと、思った。よし! 訊ねてみよう…と。届いた封書は調べるため、その日も持ち歩いていたから、背広の内ポケットにあった。
町川は占い師の対面の椅子へゆっくりと座った。
「あの…見てもらえますか」
「ああ、どうぞ…。片手をお出し下さい」
「私じゃないんです。これなんですが…」
町川は封書の中から紙を取り出すと占い師に手渡した。
「ほう…ただの招待状ですな」
「裏を見て下さい…」
町川に言われるまま、占い師は紙の裏を見た。その瞬間、占い師の顔は蒼ざめた。いや、町川にはそう見えたのである。
「こ、これは…」
「なんです!?」
町川は心配そうに占い師を窺った。
「私の家に入っていなかったそば屋の開店のただ券だ…。案内文を入れ忘れたんですな」
占い師は欲しそうにその紙を眺めながら町川へ返した。なんだ…と、町川は必死に調べていた自分が愚かに思えた。
「よろしければ…」
町川は占い師に紙をふたたび手渡し、椅子を立った。
数日が経ち、町川はいつものように朝の朝刊を開いて驚いた。開店した日、そば屋は火事で全焼し、多くの死傷者が出ていた。…ということはなく、:もしも災害:というコラム記事だった。
完




