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42]月夜の箒(ほうき)

 この話は、今から20年ばかり前の暑気がようやくせた頃のことだ。

 とある町の裏通りに店を出していた酒屋の富田とんだは客足が途絶えたのを見て、そろそろ店を閉めよう…と、表へ出た。店を開ける前と閉める前には、必ず店表をほうきき清めるのが富田商店の決まりのような習慣になっていた。

 いつもの場所に置いたちり取りと箒を出し、富田は、これもいつものように掃き始めた。取り分けて変わったこともなく、ひと通り掃き終えると、富田は箒と塵取りをいつもの場所に置いて店の中へ戻ろうとした。と、そのときである。

『あの、もうし…』

 人の呼び声に、んっ? と富田は足を止め、振り返った。だが、誰もいない。それも当然で、人通りはないのだから人がいる訳がないのだ。ははは…そんなことはないと、富田は入口の戸を開けようとした。

『あの、もうし…』

 同じ声が、今度はやや大きく富田の耳に聞こえた。富田は、また振り返ったが、やはり誰のいる気配もなかった。ああ! 俺は疲れてるんだ、一杯ひっかけて早めに寝よう…と入口の戸を開けた。

『今夜は満月ですよ…』

 ふたたびの声に、もういい! と聞かなかったていで富田は店内へ駆け込んだ。

 一杯ひっかけると、思いのほか早く酔いが回り、富田はいつの間にかテーブルに突っ伏したまま寝入ってしまった。

 気づくと満月が煌々(こうこう)と輝く深夜だった。そのときふと、富田は聞いた言葉を思い出した。

━ 『あの、もうし…』 ━

 富田は少し気になったからか、表戸を開け、外へと出た。すると! 箒が入口に立っているではないか。なんの支えもなく地面に真っすぐ立つ箒・・これは物理的には考えられない。富田はそらおそろしくなった。箒は月の光に照らされ影をばしている。まぎれもなく立っているのだ。

『いい、月夜ですね』

「ギャア~~~!」

 富田の意識は途絶えた。気づいたとき、富田はテーブルから落ち、フロアの上にいた。どうも悪い夢を見たようだ…と富田は部屋へ向かった。テーブルの下に箒があったことを富田は知らない。そんな富田がとんだ夢を見た…という、ただそれだけの話だ。


                   完

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