表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/100

41]雨の道

 長い間、降らなかった雨が久しぶりに降り、かわききった夏の大地は息を吹き返した。それは大自然に限ったことではなく、水不足にあえぐ都会に住む人間達にもいえた。ただ、激雨だったからか、都心の下水道のあちこちで水があふれ出し、マンホールのふたが浮き上がった。アスファルトやコンクリートで塗り固められた都会では、もはや土が水を吸い込む余地はなく、雨の道は消滅しようとしていた。

 そんなことがあった数日後である。給水車の運転手、三島はホッ! と安息の溜息ためいきを漏らした。ようやく、本来の仕事に戻れそうだったからだ。激雨があったとは思えないような日射しの夏が戻っていた。

 三島がようやく仕事から解放され、疲れきった身体を引きずるように家路についた夕方のことである。暗い歩道を歩く三島の耳に、どこからともなく水がゆるやかに流れる音が響いてきたのである。それも、どこか三島に語りかけるような音だった。

━ 私ら、いったいどうすればいいんでしょうね? ━

 三島には、そう聞こえた。知るかっ! と、疲れもあったせいで怒れた三島だったが、黙って、流れの言い分を聞くことにした。

━ 人間は勝手ですよね。好きなだけ自然をこわして、やれ水害だ、なんなのと言ってます ━

「あんたは?」

━ 雨の道です… ━

「ふ~ん。まあ、それはそうだな…」

 驚くこともなく、知らず知らず三島は流れる音に合いの手を入れていた。

━ 私ら、昔はいくらでも流れられたんですよ。今は消える場所もない… ━

「俺には、どうにもならん話だ」

━ 私らにだって、どうにもなりませんよ ━

「どうにもならん同士、黙って時代に流れていくしかないじゃないか」

━ そうですね。…お邪魔しました ━

 流れる音はうそのように消え、都心を走る車の喧騒けんそうにわかに三島の耳をおおい始めた。そのとき、ふと三島は、妻の由紀子に頼まれた流し素麺そうめん用の素麺を買い忘れたことを思い出し、小走りに店へと駆けだした。


                   完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ