40]消えた河童(かっぱ)
川杉は氷彫刻家である。川杉が制作した作品は数々の賞を取り、すでに世界の川杉として、かなり名は知られていた。
今年もまた川杉を多忙にする夏の季節がきた。日々の注文に応じる中、川杉は今年も国際フェスティバルに出品する新たな氷彫刻に挑戦していた。それは、川杉が今までに刻んだことがない伝説上の生物、河童だった。川杉は書かれた河童図の資料集めを始めたが、これ! といった意欲が湧く構図はなく、月日だけが徒に過ぎていった。
フェスティバルが近づいたそんなある日のことである。川杉は不思議な夢を見た。
『わしを彫ってけらせえ』
今まで聞いたこともない方言で語りかける河童の姿を、川杉ははっきりと目の当たりにした。ハッ! と川杉が目覚めたとき、外はまだ暗く、深夜だった。妙な夢を見たぞ…と、川杉は思ったが、見た河童の姿は川杉の脳裡に鮮明な記憶となって残っていた。朝になるとそれも不思議に思えたが、幸い河童の姿は記憶に残っていたから、あとは当日、彫るだけだった。
その前日、川杉は試し彫りをしてみた。そして、河童の彫刻は夢に見たとおり完成した。
「できたぞ…」
満足げに川杉が作業場を外して急須を取りに行き、戻ったときである。河童の氷彫刻が忽然と消えていた。川杉は驚愕した。刻んだはずの像の下には…小さなキュウリが一本、落ちていた。川杉はそのキュウリを手にしたとき思わず怖くなり、身震いした。
フェスティバルの当日、同じ像を彫ることは危ぶまれたが、川杉は彫った。幸いにも、この日、彫った河童は消えなかった。審査があり、川杉は金賞を受賞して優勝した。祝賀会も無事に済み、会場をあとにして帰路についた一時間後、飛行場の川杉の携帯が鳴った。河童が会場の多くの人の目の前で煙のように忽然と消えた・・という連絡だった。
「えっ?! また…いえ、まさか!」
思わず、川杉は言い直していた。その後、機中の人となった川杉の座席テーブルの上に、小さなキュウリが一本、申し訳なさそうに乗っていた。
完




