表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/100

38]恐怖のストップ・モーション

 地下鉄への道を歩んでいた通勤途上の川津は、今朝も渋面しぶづらで空をながめた。この一瞬、川津の足は停止しており、手はポケットのハンカチをまさぐっていた。さらにその手はひたいと首筋へ動き、汗をぬぐった。この一連の所作は、通勤途上の同じ場所で、ほぼ同時刻に決めごとのようにり返されていた。その場所は地下鉄通路に下る入口階段の手前で、ようやく日差しがけられる、少し気分が安まる場所だった。その場所で止まらないと何かが起こる・・というある種の自己暗示的な恐怖心もあったせいか、川津は通勤する日には必ずそうした。

 この日も朝から暑気が出ていた。ああ、今日もか…という目線をギラギラと照り始めた太陽に向け、川津はそう思った。それは、いつもの停止場所だった。当然、汗 きの川津の手はポケットを弄り、額と首筋をいた。さて、行くか…と川津が一歩前へ足を踏み出そうとしたときだった。足がストップ・モーションのように動かなくなった。川津の意思は、歩こうとしていた。だが、足は動かなかった。それどころか、手、足、腰と身体からだのすべてが氷結したように動かなくなっていた。妙なことに、暑気は感じなくなり、少し肌寒ささえ覚える川津だった。あたりを通行する人の動きはいつもどおりで、川津が立ち止っていることなど無視するかのように、雑然と動いていた。川津は必死に足を動かそうとした。あたかもその姿はリハビリ途中の患者が必死に足を動かそうとする姿に酷似こくじしていた。次第に川津はあせり始めた。誰でもいいから通行者に救いを求めるか…とも思った。と、そのときだった。一人の男が冷や汗を掻いて必死になっている川津に気づいた。

「ああ、お宅もストップ・モーションですか。私も以前、ここで、そうなりました。ははは…大丈夫! もうそろそろ…。それじゃ!」

 意味深いみしんに言うと、その男は地下鉄入口階段を下りていった。川津の身体は、その男が言ったとおり、数分後、うそのように元へともどった。その日以降、川津はその位置で意識的に止まらないことにした。そしてそれは、今日も続いている。そんな訳でもないのだろうが、川津は冬でも氷を寒がりもせず食べ、皆に笑われている。


                  完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ