25]さ迷う枕(まくら)
この話は今から十数年前にもなろうかのう…。足を崩し、冷えた麦茶でも飲んで聞いてくれ。
毎年、盆になると息子夫婦が孫を連れて帰ってきおるんじゃが、その年も十日過ぎに帰ってきおった。夜になると盆の迎え火を焚いてご先祖さまにも帰って来てもらうんじゃが、その年にかぎり、野分・・今でいう台風が襲来する悪い天気になってのう、迎え火が外で焚けなんだんじゃ。そらそうじゃろうが、外は暴風雨なんじゃからのう。仕方なしに、風が入らん竃の中で迎え火をつけ、それで迎えたんじゃ。孫達は呑気なものじゃのう。風が強まり、大雨が降っておるというに、はしゃぎまわっておったわい。まあ、幸いなことにそう大した被害にもならんかったんじゃが、風が弱まり、ご先祖さまへの盆のお参りごとを皆でやったあとから、どうも信じられんようなことが起こりよったんじゃ。言うても信じてもらえんじゃろうが、一応、話しておくとするかのう。
お参りごとも済み、しばらくして息子夫婦や孫らは別棟へ眠りに行きよった。わしと爺さまも寝ることにして、床についたわい。ここまでは、なにごともなかったんじゃ。息子が別棟から血相変えて走り込んできよったのは、いつ頃じゃっただろうのう。わしの記憶では、日付が変わった頃じゃったと思う。ただ、息子が喚いてわしと爺さまに訴えとる意味が分からんかった。枕が浮かんで部屋を飛びまわってる・・とか言っておったかのう。盆のことじゃから人魂が飛んでさ迷うなら分かるが、枕が飛んでさ迷う・・というのはどうも相場はずれじゃわい。そんなことで、爺さまと笑おておった。だがのう、息子の様子は真剣じゃった。爺さまは笑いながら息子と別棟へ行きんしゃった。何かの見間違いじゃろう。爺さま、笑って戻ってきなさるわい…と、わしも思いよった。ところがじゃ。木乃伊とりが木乃伊になる・・とはよく言うが、しばらくすると爺さまも喚いて戻ってけらした。わしも、偉いことなんじゃとそのとき初めて思いよった。その途端、爺さまの後ろからさ迷う枕が飛びまわって部屋へ入ってきよった。わしも目を疑うた。じゃがのう、枕はフワ~リ、フワ~リと天井の闇を浮かんでさ迷いよったんじゃ。さ迷うだけで、とり分け、悪さをする訳ではなかったんじゃがのう。未だにその謎は解き明かされてはおらん。不思議なことに騒ぎよるのは大人だけでのう、孫達はグースカと眠っておったわい。まあ、おまんらには信じられんじゃろうが、わしが出会うた嘘のような本当の話じゃ。
完




