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21]昨日(きのう)来た道

 伊崎は久しぶりのドライブで気分よく走っていた。一度も来たことがない無目的の場所を、何の計画もなく、そのときばったりで車を走らせるのが伊崎の楽しみだった。

 この日は生憎あいにく、夏の猛暑が朝から各地を襲う最悪の状況だったが、伊崎の気分は車を走らせるだけで高揚こうようしていた。

 馬場野ばんばのという広大な原野の高速道の途中、伊崎は急に腹がいてきた。どこぞで車を止めようとあたりをうかがっていると、左前方に立った電信柱の上に[馬糞うまぐそS.A→1Km]と書かれた標識が見えた。伊崎は見ただけで一瞬、ウッ! と食欲がせ、躊躇ためらったが、それでも空腹は我慢できず、そのサービスエリアで車を止めることにした。しばらく車を走らせていると、その馬糞S.Aが見えたので、伊崎は車を止めた。食堂や売店で、適当に腹を満せてくつろぎ、伊崎はようやく人心地ついた。少し減っていたガソリンも給油し、万全の状態で伊崎はふたたび車を走らせ始めた。

 馬場野を越え、腕を見るとすでに5時近くになっていた。夏場のことでもあり、日射ひざしはまだ高かったが、それでも時間からすれば、そろそろ今夜の宿を探さねばならなかった。幸い、鹿宿という近辺の町で宿を確保でき、伊崎は翌朝を迎えた。そして、また車の旅が順調に続くかに思えた。ところが、である。宿をチェック・アウトし、車をしばらく走らせていると、伊崎は、おやっ? と奇妙に思え、思わずアクセルの踏み込みをゆるめていた。前方に流れる景観は、確かに昨日きのう見た景観だった。初めのうちは、ははは・・そんな馬鹿なことはない…と車を走らせていた伊崎だったが、前方を流れる景観が昨日とまったく同じだと気づき始めると、顔面蒼白がんめんそうはくとなった。だが、まだ気持では信じていなかった。そのまま車を走らせていると、左前方に立った電信柱の上に[馬糞S.A→1Km]と書かれた標識が見えた。間違いなく、昨日、来た道だった。伊崎はともかく車をサービスエリアの駐車場に止めた。そして、車の中でしばらく冷静に考えることにした。そして、伊崎が得た結論は、ただ一つだった。現代科学で考えれば、今日の展開は有り得ないのだ。あるとすればただ一つ、それは、伊崎が道を間違え、元来た道にもどった…という以外になかった。要は、ぐるりと一周して元来た道に出た・・ということである。それなら辻褄つじつまが合うのだ。な~んだ、そうか…と伊崎は得心し、食堂や売店で、適当に腹を満せて寛ぐと、また車を発進させた。昨日と違うのは時間のずれ[タイム・ラグ]があるということだった。腕を見ると、まだ昼過ぎだった。当然、まだまだ走れたから、宿を取る必要はなかった。気分よく伊崎は車を走らせた。ところが、である。行けども行けども車は一向に前へ進んでいるきざしがなかった。いや、確かに車は前方へかなりの速度で走っていた。だが、行けども行けども景色が変わらなかった。そして、そうこうするうちに腕を見ると、5時近くになっていた。あとは昨日の繰り返しだった。

「あのう…私はどうなったんでしょうね?」

「はっ? いや、私には分かりません」

 昨日、泊った鹿宿の番頭にたずねると、番頭はニヤリ? と笑った。

 あとから分かった話では、時折りこの地方では、馬や鹿が化かすんだそうである。狐狸こりではなく馬や鹿が化かす馬鹿な話だった。


                   完

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