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20]毛生(けは)え地蔵

 私が友人から聞いたこの話は、かなり前の話らしい。

 今ではもう見られなくなった市電が走っていたある日のこと、友人はいつものように駅の改札を出ると帰路を急いでいた。駅から家までは徒歩で約10分ほどかかるそうだが、運動もかねて、自転車は使っていなかったそうだ。いつもの通勤路には地蔵尊がまつられた小さなほこらがあったらしい。友人は行きと帰りには必ず一度、止まり、手を合わせていたという。別に宗教心からそうしていたとは言っていなかったが、やはり素通りするのは気が引け、そうしたのだという。それが重なると、人間とは妙なもので習慣になったそうだ。そうしないと、なにか悪いことが起こるんじゃないか…とかの気持になったという。

 そんなある日のこと、地蔵尊の前へ来た友人は、いつものように手を合わせ、ふと地蔵尊を見た。夕方のことで、外はまだ明るかったそうだが、いつもと祠の様子がどこか違うことに友人は気づいた。今朝まではそうじゃなかった…とは分かるのだが、どこが違うのかが分からず、立ち止ったまま友人はじぃ~っと、祠を観察したそうだ。別に急いでいなかったということもあったらしい。で、しばらく観察していたが、やはり分からず、友人は歩き出そうとした。そのとき、友人はハッ! と気づいた。地蔵尊の赤い前掛けが消えていたのである。友人は、あっ! と気づいた。誰かが汚れているのを見かねて、洗濯でもしようと持ち帰ったんだろう…と思った訳だ。消える訳がない…と思ったともいう。

 家の前まで帰ってきたとき、友人は驚いた。玄関前に地蔵尊の赤い前掛けが落ちていたそうだ。友人はゾォ~っとして、こわくなったそうだ。

 ここでひとつ言っておかねばならない。友人は若い頃から毛が薄く、この頃にはすでに頭髪は完全に抜け落ち、禿げていた。

 友人は玄関に落ちていた赤い前掛けを洗って乾かし、朝、持って出た。

 そして、地蔵尊の首にけ、いつものように手を合わせて駅へ向かったそうだ。その日から異変が起こり始めた。友人の禿げた頭に毛が少しずつえ始めたのである。そして、その毛は若い頃のようにフサフサにまでもどったという。確かに私もそのことは認めざるを得ない。友人の過去の禿げた頭はよく知っていたし、今のフサフサ頭も知っている私だからだ。友人は、この有り難さで、地蔵尊を毛生けはえ地蔵と呼び、あがめるようになったという。

 ただ、ただ…これだけは思いたくないのだが、?%かのかつらの可能性もぬぐえないのだ。しかし私はこの怪奇な毛生え地蔵の話を信じ、友人を疑いたくはない。そんな訳で、最近は友人の頭は見ないようにし、空ばかり見ながら話をしている。


                  完

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