16]提灯小憎(ちょうちんこぞう)
そろそろ出るんじゃないか…と待ち焦がれながら、正と健一は土塀にできた穴から覗き込んでいた。何が出るかって? もちろん、言わずと知れた提灯小憎である。宵闇が迫り、辺りにポツリポツリと灯りが灯る頃になると、提灯小憎はどこからともなく現れるのだった。ただ、どこにでも現れるという訳ではなく、その名のとおり、提灯が灯る細い路地伝いの陰気な界隈に限られた。正と健一が今、覗いているこの界隈である。うらぶれた屋台や小じんまりとした一杯飲み屋が軒を連ねるこの界隈は別名、お試し小路と世間では呼ばれていた。提灯小憎が出る・・それでもここで酒を飲むか? というある種の度胸試しを兼ねた売り言葉で、それなりの客を呼んでいた。とはいえ、それは陰気+陰鬱この上なく、個人というより会社の社員養成に使われたりする場合が多かった。そんないわくつきの提灯小憎を一度、見てみようと、誰から聞いたのか、正と健一は興味本位で夕方、やってきたのだった。
「そろそろだな…」
正が健一に呟いた。
「ああ…。シィ~~」
健一は人差し指を一本、唇へ立てた。
怠慢寺の暮れ六つの鐘がグォ~~~ン! と、どうでもいいように鳴ると、いよいよ提灯小憎の登場となる。小憎が出るタイミングは小憎自身が決めていて、暮れ六つ、誰も見ていないこと、晴れ渡った夕方、提灯に火が入ったあと・・と、幾つかの条件が揃うことが必要だった。わりと注文が多い妖怪として妖怪連中の間では不人気で、格下にランクづけされていた。
正と健一は、身を小さくし、鳴りを潜めた。しばらくすると、不思議にも火入りの吊るされた提灯が突然、点滅を始めた。その提灯は、またまた不思議なことに紐が解け、フワリフワリと闇夜の宙を漂い始めたのである。そして、二人が土塀で目を凝らすと、提灯に妖しげな目鼻が現れ、ピタリ! と宙に止まった。二人はギクリ! とした。見つかったんじゃないか…と思ったのだ。その予想は的中していた。ふたたび動き始めた提灯小憎と化した提灯は、二人めがけて近づいてくるではないか。二人は逃げ出そうと駆けだした。そのとき、おどろおどろしい声が二人の背後でした。
『逃げねえでくれぇ~~~』
二人は立ち止まり、震えながら振り向いた。
『ろうそくが・・チビて消えそうだぁ~。長いのと変えてくれぇ~~』
「そんなの、知らないよぉ~~!」
二人は一目散に逃げだした。
完




