人ならざるものの独白。
「…っは、ぁ……」
甘美で、蠱惑的で、扇情的な声が響く。
異様に白くて細い腕が僕の髪を梳いて、頰まで滑り降りる。僕はその掌にすり寄って、柔らかくキスをした。手首をとって指を噛み、舌を這わせ、その存在を味わい尽くす。
ーーあまい。
そう感じた時、随分と昔に言われた言葉を思い出した。
『女の子はみんな、砂糖菓子でできてるのよ。あなたみたいな殿方を惑わすためにね』
そう言った彼女は、僕とは違う男と結婚をした。
幸せそうに手を組んで、幸せそうに子を見つめ、幸せそうに死んでいった。
僕はそれを遠くから見守っていた。
「なにを…誰を思って貴方は、涙を流しているのですか……?」
そう問われて僕は、意識を取り戻した。
興奮と欲情で頬を上気させた、その視線に射抜かれた。
ーーああ、言えない。
別れには慣れたつもりでいたのに。
お前ともいつか。
そう思うと切なくて仕方ないなんて言えない。
「お前には、一生教えてやんないよ」
不機嫌そうに顔をしかめながら、それでも僕のキスを拒まないお前が好きだよ。
わかりづらい、お前の不器用な優しさが嬉しいんだ。
だからこんな、情けない僕なんてお前には一生教えてやんない。
優しいお前はきっと、僕を突き放すだろうから。
そんなのは嫌だ。
お前が死ぬまでは、そばにいさせて欲しいから。