ミーコ 第6話 再会
快晴という事も手伝って、道は混んでいたけど、それでも時間には充分間に
合いそうだった。ババロアも花束も線香も用意した。
青梅を過ぎるといよいよ山道に差掛かる。幾つもカーブとトンネルを抜けて、
僕は見た。トンネルの先の、ガードレールの花束。
(ああ、こんな所で・・。)
ちょっと駄目だ。色々な気持ちが込上げて運転できそうにない。土産物屋の
駐車場で、一旦バイクを停めてヘルメットを脱いだ。
あんな殺風景で寂しい場所が、ミーコが見た最後の風景だったのかと思うと、
涙が出て止まらなかった。まだ時間はある。ミーコには笑顔で会いたい。
気持ちが収まるまで、少し休む事にした。泣く時はヘルメットを被ったまま
バイザーも下げて泣いた。ちょっと変な兄ちゃんだと思われたかもしれない。
15分位休んで、僕は落ち着きを戻して、その後はあの学校まで走り続けた。
学校に着いたのは5時40分頃。夏の夕陽が赤く校舎を照らしていた。
本当に居るのかな。少し不安だったけど、約束通り3階の教室にミーコは居た。
また、心底驚いた。浴衣姿になってる。
「アキラさん、運転お疲れ様。」
「いや、何それ、何で着替えられるの?」
「幽霊は魂と記憶なの。去年着た浴衣だから。」
「なんじゃ、そりゃあ。」
「オバケだから化けるの。それでいいじゃん。」
「なんなんじゃ、そりゃあ。」
「もー、似合ってる?」
うわー。お約束のフリ。言わせたいんですね。
「似合ってる。すごく可愛いよ。」
「えへへー。」
駄目だ、この笑顔で何もかも消飛んでしまう。
「折角だから写真撮ろうよ。」
「おっけー。」
ミーコは黒板にハートマークを描き始めた。プリクラかよと。ラブラブ心霊
写真ですか。悪ノリだったら僕も負けない。ハートマークに翼を書き加えた。
夕陽だけを光源にして、セルフタイマーで、4枚位一緒に撮った。
「何だか、前に撮った時より写りが良いよ。」
「夕陽のせいだよ。夕陽。」ミーコは優しく微笑んでいる。
確かに、茜色の夕日は幽霊の青白さを消し飛ばしていた。実際に目の前の
ミーコも、本当に血が通って生きているみたいだ。
綺麗だった。ちょっと言葉が出なかった。
こんな時は行動なんだよね。僕はミーコと手を繋いだ。手が冷たい。
ミーコ、何で幽霊なんだよ。何で死んじゃったんだよ。あんな寂しい所で。
たった一人で。何でだよ。そんな事を思うと、余計に言葉が出ない。
ミーコは微笑んでいるのに、僕は目を伏せてしまった。
「えへへ。泣き虫アキラ。」
「なんだよ、見てたの?」
「ずっと見てた。お土産屋さんの所で。」
「なんだよズルイよ。」
「だってさぁあ、私の事を思って泣く人がいるんだもん。」
「いいじゃんか、そんくらい。」
駄目だ、気持ちがまた溢れてきた。
「泣かせろよ。」
僕はもう鼻声だ。
「えへへ、泣かせちゃった。」
ミーコ、お前も声が裏返ってるじゃん。後はお互い声が出なかった。
抱き合ってキスした。他の表現方法なんか無かった。
後は暫くの間、ずっと抱き合っていた。
日が落ちて、遠くから祭囃子が聞こえて来た。
「行こうか、ミーコ」
「うん」
僕たちは手を繋いで、校舎を後にした