ミーコ 第5話 朝の情景
朝になった。ミーコはまだ寝息を立てている。大学生の僕も夏休みだから
昼まで寝てても良いんだけど、一応、トーストとコーヒーを2人分作った。
食べるんだろうか?味だけ楽しむとは聞いたけど。
「朝だよ、ミーコ。」
「まだ眠いよぉ。幽霊は朝に弱いの。」
なんか、嘘っぽいなぁ。元々じゃないのかな。
「嘘じゃないからー。」
もう苦笑いしかない。絶対仮病で学校を休むタイプだ。僕が食べ始めたら、
渋々彼女も起きて来た。まだ目がとろんとしている。
「アキラさん、あのね。お願いがあるの。」
「何?」
「今夜、うちの近所で夏祭りがあるの。」
「行くの?」
「行きたいの。一緒に行かない?」
「いいよ。他に予定無いし。」
「一応、私も幽霊だから、明るくなると見えなくなっちゃうのね。」
「それじゃ夜?」
「夜店とか行きたい。」
「金魚すくいとか?」
「綿飴食べたいな。」
「あの学校の3階の教室で待ち合わせで良い?」
「うん。6時位でお願い。」
「ババロアも持ってくよ。」
「えへへへ。」
ミーコは満面の笑顔だ。そんなに好きなのか?ババロア?
「それじゃ、そろそろ私見えなくなるから。」
夏の日差しは朝から強い。無理もないか。
「ごちそうさま。」
その声を残してミーコは消えた。目の前には手付かずのトーストとコーヒー。
欲を言えば食べて欲しかったけど。物理的に無理なんだ。
幽霊との恋愛って、もどかしい。朝まで肌を合わせていた人が消えてしまう。
そして戻ってくる確証がどこにもない。
つい最近まで僕は一人が普通だったし、寂しくなかった。今は一人でいる
事が寂しい。体の半分が千切られた気分だ。独りになった部屋が広く感じる。
1輪差しに咲いた花が、心の支えの様に綺麗に咲いていた。
夜6時に奥多摩到着だとまだ時間がある。天気予報は晴れ。バイクを洗って
ワックスをかけた。妙に時が経つのが遅くて、何度もワックスをかけていたら、
ピカピカになった。そうだ。このバイクも僕には欠かせない相棒だったんだ。
忘れていたよ。
「この浮気者め」って言いたげに、バイクは光っていた。今日も宜しく頼むよ。
午後3時きっかりに、バイクに跨った。この前の日焼け跡もそのままだ。
僕はエンジンをかけて、ゆっくりとクラッチを繋いだ。