ミーコ 第4話 恋愛
ミーコと付き合い始めて、一番厄介だった事は、彼女はメールも電話もでき
ない事だった。紙に書いて燃やせば伝わらないかと尋ねたら、私は式神じゃな
いんだからと笑われた。
結局、僕の部屋に居付く事になった。半日程出かけて、帰って来たら部屋が
片付いていた。ポルターガイスト現象で物を動かして片付けちゃったのだ。
ミーコは得意満面の笑顔を浮かべていた。
「どう?綺麗になったでしょ?」
びっくりだった。こんな話聞いた事もない。それでも笑顔には笑顔という、
恋愛の鉄則で、なるべく自然な笑顔を浮かべつつ、100均で買った1輪差し
の花瓶に、駅前の花屋で買った、名前も知らない切り花を差した。
「えー!綺麗じゃない。これなんて花?」
「いや、知らないんだよ。」
「ダメじゃん、教えてもらわなきゃ。」
「聞いても忘れちゃうと思う。」
「アキラさんらしいなぁ。でも綺麗。」
彼女と僕は花を見つめ合った。恋愛すると本当に人生が変わる。これまで
殺風景だった一人暮らしの部屋に、幽霊だけど彼女がいて、花が咲いている。
自分はコミュ障じゃないかと少し疑っていたのに、ミーコには何でも素直に話
せる。波長が合うって、きっとこういう事なんだ。
この部屋は6畳1Kの普通のアパートで、ベットも一つしか無くて、小さな
ベットで寄添って寝る事にした。いいのかな?いいんだよね。僕は先にベッド
へ入ったけど、彼女は照れて入って来ない。モジモジしながら話した事は、
「私、幽霊だから、夜のお相手とか出来ないからね。」
耳まで真っ赤にして。可愛いったらない。
「僕らがプラトニックなのは最初から承知の上じゃない。」
「そ、そうだよね。」
いそいそと、ミーコもベットに入ってきた。
「幽霊も寝るの?」
「元は人間だもの、夜行性動物じゃないよ。」
まだ照れている。ベッドから落ちそうだ。
「もっと近くに来なよ。」
「私の体、冷たいよ。いいの?」
もう、この熱帯夜に何を言ってんだと。腕枕をする格好で、ミーコはやっと
身体を寄せた。本当に冷たい。死体を抱いている様な嫌悪感が一瞬よぎる。
そうか。ミーコはこれが恥ずかしかったんだ。
「ごめんね。冷たくない?」
「ひんやりして気持ちいいいよ。」
「無理しないでね。ごめんね。」
何言ってんだよ、何も謝る事無いじゃんか。
僕は強くミーコを抱きしめた。
僕の体温でミーコを温めてあげたかった。
僕の体温なんか、どうでもよかった。
「うっ」
「ごめん、きつかった?」
「ううん、違うの。」
まずい、目が涙目だ。
「うっ、ううっ」嗚咽が漏れる。
泣き虫のミーコ。今は言葉で表せない気持で一杯なのかな。こんな時は言葉
は無力だ。一番効くのは、抱きしめて背中を優しく撫でる事だ。本人がそう言
ってたのだから、そうなのだろう。
泣き疲れてミーコは眠った。静かな寝息を聞きながら僕は優しく背中を撫でた。
ミーコ。大好きだ。ミーコ。