ミーコ 第3話 共鳴
その後、幽霊さんは気持ちが落ち着いた様で、事の次第を話してくれた。
「私は事故で死んだの。車に轢かれたの。」
事故の現場はトンネルの出口で、道が急カーブになっている場所だった。
地元を知らない飛ばし屋が、毎年の様に事故る場所だ。
遊び盛りの、高校3年の夏休みだった幽霊さんは、部活の帰りに街まで繰り
出して、少し遊んで帰りが遅くなった。父親は車で迎えに行くと言ったけど、
軽く反抗期だった幽霊さんは断ってしまった。
JR青梅線。鳩ノ巣駅から家まで、徒歩だと30分位かかる。少し国道沿い
を歩かないといけない。時間は夜10時を過ぎていた。
同じく夏休みで、免許取り立ての大学生が良くやる事故だ。
「白い車だった。ヘッドライトが眩しかった。他は覚えてない。」
「私が気づいた時は家で、自分の部屋だった。だから最初は全部夢かと思った。
隣の部屋で弟が寝てて、姉ちゃん今大変だったんだぞって、ビンタをしたら手
がすり抜けた。その時私は、自分が本当に死んだんだって解った。」
生徒手帳で幽霊さんの身元はすぐに割り出された。帰りを待って心配してい
た両親は、警察からの電話で泣き崩れた。弟も叩き起こされて、病院まで3人
で車で飛ばしていった。
「私が堪らなかったのは、病院から父親が帰って来た時。粗野で品性のない父
親だったけど、玄関を閉めたらしゃがみこんで泣き崩れた。「馬鹿やろう!」
「馬鹿やろう!」って涙声で連呼して叫んでた。鼻水垂れ乍ら泣いてた。
私は土下座して、本当のごめんなさいを言ったよ。」
「本当のごめんなさい?」
「そう、本当に、心の底からのごめんなさい。街遊びで浮かれて、迎えも断っ
て死んじゃったんだもん。」
「母親にも、反抗期で拗ねてばっかりで随分迷惑かけた。母親にも、本当のご
めんなさいをした。弟はちょいごめんなだったけど。」
「ひどくない?」
「いいのあいつ馬鹿だから。」
「幽霊さん、名前を聞いていいかな?お墓が有ればお参りするよ。」
「まだ納骨前だからお墓は無いの。ガードレールに花束はあるけど。」
「それと、私の名前は田村美子。(よしこ)なんだけど子供の頃から
ミーコって呼ばれてるからミーコでいいよ。」
「それじゃ改まって、僕は岩元明。アキラとでも呼んでくれるかな。」
「ミーコは何で学校にいたの?」
「納骨前で居場所がないから。」
「あの中学に通ってたの?」
「違うよ。あそこ静かで居心地がいいの。」
「良く血まみれの幽霊とか聞くけど違うよね?」
「最後の記憶がこの恰好だから。」
うーん、何だか解った様なわからない様な。少し下らない質問をしてみた。
「幽霊って何食べるの?」
「・・ババロアかな。」
絶対嘘だ。それは今食べたい物だろ。
「わかった、花束とババロア供えておくよ。」
「ふふ、有難う。」
やっと笑った。
「もう一つ、聞いていいかな。これまで何度も幽霊が出そうな場所で撮影して
きたけど、実際こうして出て来たのはミーコだけなんだ。どうしてだろう。」
ミーコは少し悩んで答えた。
「よく霊感はラジオのチューニングみたいな物っていうけど、丁度アキラさん
とは波長が合ったんじゃないかな。実際に何かの縁で出会ってたら付き合って
たかもね。」
思い切って話を切り出してみた。
「僕は人間だし、ミーコは幽霊だけど、何か縁がありそうな気がするんだ。
付き合ってみない?」
ミーコはびっくりして赤面していた。
「え?今の告白?私男性とお付合いした事ないから何していいかわかんないよ。」
「一緒に映画を見たり、普通の事だよ。僕も女性とのお付合いは初めてなんだ。」
「ちょっと考えさせて。」
ミーコは消えていった。
随分不思議な体験をしたなと思っていたら、3日後にミーコが現れた。
「お話、受けてもいいかなって。」
ミーコはめっちゃ赤面している。可愛くてたまらなかった。
「私もデートとか、そういう事しないまま死んじゃったから。」
「一緒に水族館に行こうよ。」
「うん、楽しそう。」
「ディズニーランドはやだよ。僕一人しか他人から見えないんでしょ。」
「やだやだ。行きたい。TDLでデートは女子に生まれた本懐なのよ。」
「ええ~~」
「女子と付き合う以上諦めて下さい。」
「わかりました。」
「それと、これは真面目な話。私は子供を作って家庭を築く存在じゃないから。
誰か他にいい人出来たら私は消えます。」
それは全然問題なかった。廃墟巡りが趣味なんて男は全くモテないからだ。
「ビール、飲める?」
「苦くて嫌。」
「ポテチとか食える?」
「味だけ楽しむ事はできるよ。」
「じゃあ、ツタヤで何か借りてきて映画でも見ようか。」
「アナ雪まだ見てない。」
「僕も見てない。」
「じゃそれで。」
何だか不思議な、幽霊との恋愛が始まった。
プラトニックは承知の上だ。肉体が無いんだから。でも何だかこうして、
ミーコと話しているのは楽しかった。ミーコは楽しいのかな?少し不安になる。
ミーコの笑顔は本当に可愛い。ミーコを沢山笑顔にしたい。
この気持ちを大切にしようと思った。