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ミーコ  作者: 相川 仁
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ミーコ 第2話 出会い

 帰宅するなり即シャワー。夏の太陽で肌が焼かれた。冷水がひりひりする。

バイク用グローブの、手首の僅かな隙間が日焼けしていた。これでは堪らない。


 雲って水滴だらけの鏡に、何か一瞬影の様な物が見えたけど、特に気にせず

風呂から上がった。これが後々喧嘩になるとは思わずに。


 PCにデジカメを繋いで、1枚ずつ今日の写真を見直してみた。やっぱり只

の普通の学校だなぁ。でも1枚だけ様子が違った。3階の教室で、生徒からの

視点で黒板を撮った写真に、女子高生が1人写っていた。

「うわぁ!」

心底僕はびっくりした。今まで「出る」と言われた廃墟でも、ヤバそうな場所

の夜景も、何百枚も撮ってきた。でも1枚もそれらしき物が写った事なんか無

かった。僕の霊感が鈍いのか。この手の写真は自分には関係ないという、変な

自信さえあったのに。


 良く見ると夏の制服が可愛い女子校生だった。伏し目がちの表情は暗くて、

幽霊だから当たり前なんだけど、生気の無い沈んだ色をしていた。


 もう何やってるんだろう僕は。画像ソフトで心霊写真を加工し始めた。

色調のシアンが強かったのを補正して、彩度と明度を上げた。立体感が少し物

足りなかったので、コントラストも調整したら、本当に、人が写っている様に

見える。伏目がちだった目に光を入れたら、生き生きしてきた。可愛いじゃん。


 ここで保存しちゃった。元画像はカメラの中だし。ここで止めればいいのに、

悪乗りしてしまった。


 フリー素材からバニーガールの衣装を落としてきて、コピペでコラを作った。

ちょっと胸の位置が合わないので歪めて加工していたら、背後から冷たい両手

で首を絞められた。


「殺す。」


 いかん、マジだこれ。爪が首に刺さってる。ちょ、ちょっとまってくれ!

僕は椅子から転げ落ちて、背中から落ちた時に、首から幽霊の手が離れた。

恐る恐る見上ると、制服姿の女子高生の幽霊が僕を見下ろしている。


 ヤバイですよね。これ。どうしよう。僕は目を閉じて、必死でお経とか呪文

とか、ありとあらゆる、覚えている限りの言葉で祈った。ナムアミダブツ!

アーメン!エロエムエッサイム!転生してどうする?みたいな物も唱え続けた。

それなのに。

それなのに。


幽霊は鼻で笑ってる。


「全然効かないよー。」


 全身から力が抜けてしまった。それじゃあ、どう仕様も無いじゃないか。

早鐘の様な鼓動も収まってきた。まず状況をよく理解しよう。

幽霊は怒っているのだ。


「何これ?何でバニーガールの恰好してんの?」

「いや・・出来心で。」

「思いっきり死者への冒涜じゃない!」

「確かにすまんかった。直すよ」


目に光を入れた所まで加工を戻した。


「これでいいのよ。全くスケベなんだから。」

「もしかして、ずっと見てたの?」

「あの学校からずっと憑いて来たんです。」

「それじゃシャワーでちらっと見えた影は君?」


幽霊はぷいと横を向いて答えなかった。


「俺の裸見てるじゃんか、エロ幽霊!」

「そっちだって女子トイレ使ってたじゃない。変態!」

「もしかして、2回も見たの?エロエロ幽霊!」

「ひどい!少し見えただけだよ!ひどい!」

「少しって、結局見たの?」


幽霊はまた、ぷいと横を向いて答えなかった。


「見たのか・・」


幽霊は泣き出してしまった。なんてことだ。


「ごめん、言い過ぎた。ごめん。」

「うわああああん」


 参った。この娘は一度泣き出すと止まらないのだ。学校では苛められる側の

人種だ。関係無い事も一緒に泣いちゃう人、というか幽霊。


「何で死んじゃったんだろう。何で私だけ・・・。」


背中を丸めてを嗚咽を漏らす幽霊さん。僕はずっと背中を擦って慰め続けた。


「結婚して人並みの幸せを送りたかった・・・。」


 それならばとブライダルサイトからウエディングドレスの写真を拾って来て、

コラして見せたら、一瞬泣き止んだ。


「いいなぁ。こんなドレス着たかった。でも私は着れない。相手も居ない。

私は何もできない・・」


 又泣き出した。もうお手上げだ。ただ淡々と僕は背中を擦り続けた。



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