ミーコ 第1話 プロローグ
暑い。バイクのラジエーターが悲鳴を上げている。水冷4気筒エンジンの
水温計がグングン上がっていく。少しコンビニで休む事にした。
このバイクとは、もう長い付合いになる。東京の大学に合格して、6畳1K
のアパートで一人暮しを始めた時、5時間かけてアパートまで乗ってきた。
まさに鋼鉄の名馬だ。
一休みしながら、スマホのナビで目的地を確かめてみた。目的は廃墟巡り。
朽ちた建築の光景を、モノクロ写真に収める事が趣味なのだ。一度でいいから
軍艦島に行ってみたい。
今日は、奥多摩の先に古い廃校が有るという、友人の話を頼りにやって来た。
つづら折のカーブとトンネルを抜けて、少し走った所でスマホ君は話した。
「目的地です」
しかし、何もない。ここは資材置き場だ。グーグルマップだと有ったのに。
最近取り壊されたのだろうか。蝉の声ばかり聞こえる中、僕は途方に暮れた。
夏の奥多摩ツーリングは楽しかったけど、空振で帰るのは残念で堪らない。
近くに同じような廃墟は無いだろうか。
先程通り過ぎたバス停に、日傘を差したお婆ちゃんと、日陰で涼んでいる猫
がいた。僕は来た道を戻ってお婆ちゃんに話を聞く事にした。
バス亭には、まだお婆ちゃんがいたけど、猫は僕を見て逃げてしまった。
「すみません、この辺に凄く古い学校とか、建物は有りませんか?」
「ああ、凄く古いのはこの前取り壊しちゃったよ。ボヤが出て物騒だったから。
廃校ならもう一つ、近くに有るよ。」
お婆ちゃんにお礼を述べて、再び走り出した。確かに近い。10分程走った
場所に、その廃校はあった。
ただ、残念な事に廃墟と呼ぶほど古くない。鉄筋コンクリの、まだ使えそう
な位の校舎。たぶん中学だ。少子化の波を受けて廃校になったのだろう。
本当は立入禁止なんだけど、カメラの電池を確かめて、中へと入ってみた。
一階は族の溜まり場だった様で、煙草の吸殻とスプレーの落書きだらけだ。
退廃的でも耽美でもなく、これではただの荒廃で、あまり好きじゃない。
こんな物かと思いながら、廊下とか、教室とか、少しだけ面白かったから、
女子トイレも入ってみた。学校の女子トイレなんて初めて入ったけど、あまり
写真を撮る様な場所じゃなかった。たまたま尿意を感じた僕は、女子トイレで
用を済ませた。すみません。
校舎の外の配管に蔦が巻付いていた。コンクリはひび割れて、配管は錆びて
ぼろぼろなのに、蔦は元気に青々としている。そのコントラストが面白かった。
これを一枚撮って、撮影を終わりにした。
その後は無事に僕の部屋まで帰ってきた。バイクのエンジンを切ると一気に
世界は静寂になる。無事帰って来れた安堵感。今日も良く働いてくれたバイク
に感謝して、馬の首を撫でる様に、ガソリンタンクをポンポン叩いた。
短い日帰りの旅が終わった。