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透とミーの物語

作者: 林 秀明

僕の名前は皆川透。今年で12歳になります。僕は病気にかかっていて後一週間で死にますが、少しでも多くの人に僕がミーと出会って死ぬまでにあった事をお話したいと思って書きました。

 まずは僕の事を話そうと思う。僕の家族は3人家族でお父さんとお母さん、そして僕の3人で東京に住んでいる。東京といっても都外なので周りには緑があります。お父さんは役所の公務員で働いていて、土、日は一緒に遊んでくれて優しい。お母さんは専業主婦で毎日家事をして、一生けん命頑張っている。僕に「勉強しなさい」っていつも言ってたまにうるさいけど、本当はとても優しい。今はあまりしないけど昔は寝るときにほっぺに毎日チューをされた事を覚えている。

 でも僕は病気なんだ。生まれてから耳に不自由があって聞こえない。だからお父さんの声やお母さんの声がどんな声か分からない。

きっと優しい良い声なんだって思う。いつも微笑みかけてくれるからきっと優しいんだろうって。そんな僕がミーと出会ったのは小学校1年の時だった。


 12月の雨の日学校から帰る途中だった。通りすがりの広場をいつも通り歩いていたら、そこで猫が箱の中に入っていた。子猫だろうか? 身体は小さく三毛猫だったが、目が見えなかった。

 「君一人なの?」

 僕はそう尋ねても反応がない。むしろ怯えている感じだった。おそらく前の飼い主にひどい事をされたんだろう。僕は可愛そうに思い、箱を手に取り、早々と家に帰った。

 家に帰って両親に猫を見せると、2人とも笑顔で迎えてくれた。何か言われるかなと思ったけど良かった。僕はこの猫の名前をミーと名付けた。出会った時ミーミーと鳴いていたんだろうと思って、付けたんだ。

 それからはミーと会うのが楽しくて仕方なかった。ミーの声は分からなかったが、ミーが何をしたいか表情を見て分かった。猫じゃらしをもって、ミーが右往左往する姿がたまらなく楽しかった。夏はゴロンと横になってうなだれてたミー、冬は一緒にこたつに入って夜を明かした事もあったミー。どの場面でもミーはそばにいた。学校での友達は少なかったが、家に帰って会うミーは僕の良き友であり理解者だった。


小学校4年の時、ミーが突然いなくなった。お母さんに聞いたら、猫は死ぬ前になるといなくなるって聞いた。僕はいてもたってもできず、ミーを探しに行った。出会った場所の広場や近くの商店街を一周したが見つからなかった。「もう。このまま一生会えないのかな」嫌な想像だけが妙にはたらいた。心がぎゅっと苦しくなった。

 家に帰ってずっと落ち込んでいたが、ふと窓の外を見るとミーがいた。僕はすぐに窓を開け、ミーを入れた。ミーはどこかの猫とけんかをしていたのか、少し血が付いていた。

僕は何も言わずに、涙だけ流しながらミーをぎゅっと抱いた。

 僕はこの頃から小学校でいじめを受けていた。同じクラスのやつが僕が耳が聞こえない事を理由にばかにして、他のみんなもそれに並んでばかにしてきた。学校に行くのが嫌になった。


 小学校5年の時にガンが発覚して、残り1年の余命を病院の先生から言われた。その時のお父さん、お母さんの顔をいまだに覚えている。涙でぐちゃぐちゃになったかなしい顔だ。僕は2人に抱きつかれて苦しかったけど、この苦しみがもうなくなるのだと知った。

 先生は本当は病院にいなきゃって言われたけど、家でいたかった。残りの命をうんと楽しく過ごしたかった。ミーとずっと一緒にいたかった。でももういられないと思うと悲しくなった。死ぬのが怖かったんだ。


 僕が死ぬ約一週間前にミーが死んだ。以前から元々病弱で体が弱かったミーだが、ここ数週間容態が良くなかった。大丈夫かなと心配していた時、ミーが死んだ。

 突然の事で何が起こったか分からなかったが、時間の問題だった。ミーは二度と僕の体に寄り添ってこない事を……。僕は僕を置いて行かないでよと強く思った。しかし思った所で悲しさが増すだけで何も変わらなかった。ミーの笑顔のように死んだ顔がとても印象的だった。

最後だけでもいいからミーの声が聞きたかった。そして最後だけでいいからミーが僕の顔を見て欲しかったと神様に訴えた。

 でも心むなしく何も解決にならなかった。ミーは僕の家の庭で埋葬された。お父さんとお母さんが何度も僕の肩をさすり、僕を慰めてくれた。本当に温かった。ミーは今頃天国でミーの仲間たちと元気にしてるかなとそう感じた。


 ミーが死んでから僕が死ぬまでの一週間お父さん、お母さんと遊んだ思い出もあったが、僕はずっとミーと遊んだ想いにふけっていた。結局友達は誰もお見舞いに来なかった。

 なんで僕だけがこんな思いを……と学校の友達や世間にいきどおりを感じた。なんで神様はミーを天国へ連れて行ったの? なんで僕は耳が聞こえないの? と神様にも文句を言った。

もっと生きたかった。遊びたかった。大人になりたかった。お父さん、お母さんの声が聞きたかったとしたい事が出来ない後悔の念でいっぱいだった。

 でも死ぬ前に思った。こんな僕を大切に育ててくれたお父さん、お母さんにありがとうを言いたいと。こんな僕にミーというかけがえのない友達を与えてくれた神様に感謝したいと。みんなずっと一緒にいてくれてありがとうと。だから死ぬ前に一言言わせて。お父さんお母さん今までありがとう。これからも仲良く元気でね……そしてミー。今まで一緒に遊んでそばにいてくれてありがとう。何にもしてあげられなくてごめんね。君といた日はずっと忘れないよ……。


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