15話 それは突然の出来事
新年明けましておめでとうございます。
皆様今年も相変わらずのスローペースですが、何卒よろしくお願いいたします。
シズネさんは外へ行ってしまい、家の中は私とアイリちゃんの2人っきり。
何か嫌な予感がしたカナデは盗み聞きでもしようかと一瞬考えるが、それがばれて立場が悪くなるのもまずいと思い止まる。まぁシズネさんもいる事だし、そう悪い事にはならないだろう、と楽観的に考えたカナデは、とりあえずさっきの嫌な感じのするお爺さんがどんな人か聞こうと、いつの間にか後ろにいるアイりちゃんの方へ顔を向ける。
「ねぇ、アイっ!」
けれど名前を呼びかけようとしたその言葉は最後まで言う事はできなかった。
「うっ、む、あぅ!」
口元に白い布が当てられている。その事に気づいた時にはすでに意識が朦朧としていた。脳裏に浮かぶのは純粋な疑問。何がどうしてこうなっているのか、理解できない。だってこの家にいるのは私の他にはアイリちゃんだけ、つまりこの布を当てているのは……
「ァ……イ……ゃ……」
「…………ごめんなさい」
ぼんやりとする視界の中で見えるアイリちゃんの瞳はとても暗いものだった。
(……どう……して?)
(この子も、イヤな気持ち、する)
それは……早く、言ってほしかった、な……。
そして私の意識が遠のいていった。
◆
「……?」
目が覚めた私の視界に入ってきたのは、真っ暗な世界だった。カナデの周囲は布の様なものに囲われている。身体が不安定に揺れている事から、バッグのような物に入れられ、どこかに運ばれているのだと推測する。
(これって誘拐ってやつ!?)
ぼんやりとした意識が現状を理解した瞬間、カナデの覚醒した。おもわず大声を出そうとするが、口には猿轡をかまされており、上手く声を出す事もできない。さらには後ろ手に縄のようなもので縛られており、まともに身動きを取る事もできない。
(どうして……アイリちゃん)
思い出すのは、意識を失う瞬間に見たアイリちゃんの暗く淀んだ瞳。ほんの少し前まで、快活に喋っていた笑顔とは似てもにつかないものだった。
そんな事を考えていたら、不意に身体が大きく揺れ、全身に痛みが走る。
(っ!)
恐らく地面に投げ出されたのだろう。全身に走る痛みで瞳に涙がたまっていく。そして涙は弱い心を揺さぶっていく。わけもわからず異世界に飛ばされてきたカナデが、これまでなんとか前向きに頑張ろうと決意した気持ち、しかしそれはただ誤魔化してきただけだった。異世界という御伽噺のような世界で興奮していただけにすぎないカナデ。特別な人間ではなく、ただの女子高生でしかないカナデが誘拐されて平静を保てるわけもなく、弱気になった心は止まる事を知らずどこまでも落ちていった。
(もうヤダっ……帰りたいよ)
脳裏に浮かぶのは優しい自分のいた世界。平凡な日常は時に不満をもたらす事もあったけれど、失ってから、それがいかに大切で素晴らしい日々だったのか、カナデは今更になって思い知っていた。
(お母さん……お父さん)
カナデは自分が甘やかされて育った事を知っている。たった一人の娘である自分を両親は大切にしてくれた。怒られることも殆ど無く、不自由の無い生活をしていた。そしてそれを当然と思いカナデは享受してきた。困った時はすぐに助けてくれた。欲しいものがあったらすぐに買ってくれた。
気づくとカナデは泣いていた。これからどうなるかわからない恐怖と、自分の知る世界とかけ離れたこの世界の在り様に、辛く、悲しく、寂しく、泣いていた。