12話 現状把握
「え~と、聞きたい事が2つあるんですけど、いいですか?」
「はい」
こういう時は、焦らずに現状を把握する。子供の頃によく慌てて失敗していたから学習した事。
「まず1つ目が、昨日っていうのは?」
「カナデさんが気を失ったのは昨日の事なんですよ」
「っていう事は、私は丸1日眠っていたの?」
「はい」
成る程、身体が痛いのは床のせいだけじゃなくて、眠りすぎが原因なわけと。まぁ正直そっちはどうでもよくて、それより本題はここから。
「それで2つ目、レンファさんが出て行ったっていうのは?」
「昨日、カナデさんが気を失った後、レンファさんは先を急ぐからと出て行ってしまいました。私たちもお礼したく引き止めたのですけど……カナデさんの事をよろしくと言い残して……行ってしまいました」
「そう……ですか……」
そう言うのが精一杯で、思わず眩暈がしてきました。折角レンファさんと一緒に頑張ろうって思った矢先にこれですか。確かにレンファさんと一緒にいるっていうのは私の事情ですけど……それにしても黙って行くなんて……
「ごめんなさい……私たちもせめてカナデさんが起きるまでと言ったんですけど、その、すごく気にしていたようで……」
「気にしていた?」
「はい、レンファさんは私が怖がらせたと。このまま一緒にいても怖がらせるだけだからって……」
「え?」
思わず聞き返してしまった。怖がらせたって、あれ? じゃあレンファさんが出て行ったのって私のせい? 私が気を失ったから? 私が悲鳴をあげたから? 私が……脅えたから?
「レンファさんからは、私の代わりにカナデさんをよろしくと言われてます。汚い家で申し訳ないですけど、暫くここで休んでいって下さい」
シズネさんが何か言っているけれど、混乱した私の耳には届いて来なかった。レンファさんが出て行ったと聞いた時よりも、私の頭はずっと混乱していた。私の行動がレンファさんを傷つけた……そう思うとなんともやるせない気持ちになっていく。思えば私は勝手にレンファさんについていった。レンファさんの都合も考えずに。そして、レンファさんは何も悪い事、ううん、むしろ正しいことをしたのに……私はそんなあの人を傷つけたんだ。
――謝りたい。会って、謝らないと!
そう思ったらいてもいられなくなってきた。私は喰ってかかるように、縋りつくように、シズネさんに言葉をぶつける。
「あの! レンファさんがどこいったのかわかりますか!? わたし謝らないと、会って、それで、それから、わたし」
「ちょ、ちょっと待って! お願い、落ち着いて」
「あ、ご、ごめんなさい」
あぁ、やってしまった。子供のころからそう。私は感情が爆発すると冷静でいられなくなってしまう。それでいつも失敗してきた。普段は冷静でいようとするんだけれど……
「お姉ちゃん、どうしたの?」
と、そこへ騒ぎを聞きつけたのか、玄関と思われる扉から女の子が1人入ってきた。
「あ、目が覚めたんだね」
「えぇっと?」
「アイ、挨拶しなさい」
「は~い。初めまして、アイリって言います」
そう言って、可愛らしい笑顔と一緒にお辞儀してくる少女。
「あ! あの捕まってた」
「はい! レンファお姉ちゃんに助けてもらいました」
「アイは私の妹なんです」
「は~、そうなんですか。初めまして、私はカナデ。カナデ=ユウナギです」
そういえばシズネさんにもちゃんと挨拶してなかったと思い、改めて2人に挨拶する。レンファさんとの会話で、こちらは家名が先と知っていたのでこちら流で名乗る。
でもそっか、それで“恩人”であるレンファさんのお願いで、私の面倒をシズネさんが見てくれてたんだ。
「ねぇねぇ、カナデちゃん」
「……なに?」
そんな風に現状を理解していると、アイリちゃんが話しかけてくる。その口ぶりから、主に“ちゃん”付け辺りからとても嫌な予感がしたけれど、話の先を促す。
「カナデちゃんって、いくつ? わたしと同じくらい?」
「……アイリちゃんはいくつなの?」
嫌な予感が的中です。恐らくアイリちゃんは10歳前後でしょう。そんな娘に同じくらいって聞かれるなんて……いやいや待って、まだそう考えるのは早計といったものでしょう。ひょっとするとこっちの人も私みたいに発育が遅いのかも
「わたし? わたしはねぇ、この前8歳になったの!」
「…………そう」
「えへへ」
そう嬉しそうに答える少女。あぁそうですか、逆に発育はいいようですね。見た目130cmぐらいの少女。ぶっちゃけると私より少し低いぐらいですか……そんな少女が8歳……ふふっ……どうせ私なんて発育不全のできそこないですよ……
そう黄昏ていると、シズネさんまでもが驚愕の言葉を続けてくる
「私は今年16になるんですよ」
「……は?」
「私は来月16歳になるんです。カナデさんはお幾つなんですか?」
「わたしより少し年上? 10歳ぐらい?」
あぁ、ここは異世界ですからね。きっと身体の成長も違うんですよ。えぇ、そうに違いありません。そう思う事にしましたよ。はい
「そ、それよりごめんなさい。えっと、レンファさんなんですけど、どこへ向かったかわかりますか?」
とはいったものの、なんだか素直に年齢を言うのは負けた気がするので、話を変える事にしました。というよりそんな年齢なんて気にしている場合じゃないんですよ! 大事なのはレンファさんの事なんです! えぇ、決して現実から目を逸らしたわけじゃないですよ?
「レンファさんならリクレイトに向かいました」
「リクレイト?」
「あれ、知らないの? すっごい大きな街なんだよ~」
「そこへはここからどういったら行けますか?」
「ここから南へって、まさか追いかけるつもりなの?」
「はい」
そう、追いかけなくちゃ。会って、謝らなくちゃ。私はそんなできた人間じゃないけど、それでも誰かを傷つけて、そのままになんてできない。
「ここから南の森を抜けた場所にあるんだけど、普通に歩いて10日ぐらいかかるわよ?」
その言葉に頬が引きつる……どうやら目的地は予想以上に困難な道のりのようです。10日って……昔と違って普段あまり歩かなくなった現代人に10日の道のりって相当なものですよ。それになにより野宿しなきゃいけないじゃない! 食べ物もどうすればいいの!? お風呂! お風呂は!?
「だからね、大人しく迎えが来るのを待ちましょう、ね?」
私の絶望が伝わったのか、そう優しい笑顔で接してくるシズネさん。ってあれ? 迎えって何の話でしょう?
「レンファさんから聞いていたけれど、カナデさんは本当に貴族らしくないわね。私達からすればそれは接しやすくて嬉しいけれど、これ以上危険な事したらご両親に怒られるわよ。きっとご両親も心配して探しているわ。レンファさんに会いに行くのはそれからでも遅くはないでしょう」
……本当に私の耳は異世界に来ておかしくなってしまったようです。いつから私は貴族の子になったのでしょう……。