11話 目覚めて、それから
「ここは?」
気がつくと私は床に寝かされていました。いえ、床というのは少し失礼かもしれません。木材の床に簡素な布が敷かれています。きっとこれがこの世界の、少なくともこの村での寝床なのでしょう。ほとんど床に寝かされているのと同じ感じがして背中がとても痛いですけど。
「気がつきましたか?」
寝たままの私に柔らかい笑顔を向けてきたのは、レンファさん……ではなく知らない女性でした。
私が首を傾げていると、その女性は私の疑問に気づいたのか、言葉を続ける。
「私はシズネと言います。貴方はカナデさんですね?」
「そうですけど……なんで私の名前を?」
現状が理解できない私の姿がおかしいのか、クスクスと可愛らしい小さな声で笑う女性。とはいってもそれは馬鹿にしたような笑いではなく、微笑ましい笑いだった。シズネさんと名乗ったこの女性は、大人っぽい落ち着いた雰囲気を身にまとった、目鼻のパッチリとした金髪美女って感じの人。年齢は20代後半ぐらい? 外人さんの年齢は分かりにくいけど、それぐらいじゃないかなぁと思う。
「私は、え~と? あの」
状況がよく分からないけれど、寝たままというのも失礼な話なので、とりあえず体を起こす。落ち着いて辺りを見渡せば、やはりここはこの世界の家のようです。外から見たときは今にも倒れそうな簡素な建物に見えましたが、内側から見ると……やっぱり壊れそうで、ちょっと不安です。
「気分はどう、落ち着いた?」
そんな失礼な事を考えている私に先ほどと変わらず優しい微笑みを向けてくる女性。シズネさんといいましたか、よく見ると顔が少し土で汚れています。まぁこういう村で生活するって大変なんでしょう。化粧なんてする事もなさそうですし、そもそもこの世界に化粧なんてあるのかな?
「大丈夫? どこか痛む所とかある?」
「あ、いえいえ。大丈夫です元気です」
再び失礼な考えをしていた私でしたが、色々と思い出してきました。私は血を見てショックで倒れたんでした。正直、今もあの光景を思い出すと恐怖で体が震えます。飛び散る血や、胸や首を切られて悲鳴をあげる男たちの無残な姿……それは初めて死というものを意識した瞬間で、今もまぶたの裏側に焼きついて離れません。と、そこまで思い出した所で、大事な事が頭によぎる。
「あの、レンファさんは?」
「…………」
「あのー?」
何故か、口を閉ざす彼女。ちょっと嫌な予感がするけれど、それでも聞かないわけにはいかないし、もしかしたら名前だけじゃわからなかったのかもしれないので、もう一度尋ねてみる。
「えっと、レンファさんっていうのは、一緒にこの村に来た人なんですけど。外見はちょっと残念な美人さんで、あ、さっき暴漢達を退治した人って言ったほうがわかるかな」
「はい、レンファさんには助けていただきました」
よかった、どうやら通じていたようです。
「昨日、村を出て行きました」
「…………は?」
私は異世界に来て耳がおかしくなってしまったようです。