カセットテープに録られたモノ
皆さんは「金縛り」という言葉を耳にしたり、遭ったりしたことはあるだろうか?
一般的に、金縛りは夜など寝ている時になる現象で、目は覚めているのに、体は一切いうことをきかず、身動きできない状態をいう。
この現象は当時、霊感のある人間がなる確率が高いとされ、金縛りの時に幽霊などの妖しいモノを見たという報告が多かった。
私が子供の頃は、今よりも心霊現象をテーマにしたテレビ番組が多く、金縛りもオーソドックスな心霊現象としてよく取り上げられていたものだ。
それと、私が憶えている中には「10代の若者がなる確率が高い」「解けないと死ぬ」「古い血筋の人間はなりやすい」という噂も流れていた。
しかし、実際には金縛りは心霊現象ではなく、脳は起きているのに身体は眠っている「レム睡眠」の状態が続くことで起こる医学的な現象(睡眠麻痺)とされる。
主な原因には、睡眠不足や不規則な生活、疲労や強いストレス、仰向け寝などが挙げられている。
この金縛りだが、私自身、経験は何度もある。
初めてなったのは、中学生になってすぐだ。
自分の部屋というものを初めてもらい、そこは和室だったけどベッドを置いてもらった。
で、そこで一人で就寝するようになってしばらくして、深夜に覚醒したけど身体がまったく動かないという事態になり、激しい恐怖を感じたのを今も記憶している。
真っ暗な室内で身動きがとれず、視界だけは自由がきくという異様な感覚は、初めて経験した私を混乱させた。
声も出せないから、助けも呼べない。
そうこうしているうちに何かが近付いてきたり、私の顔を覗き込んだりしたら…と考え、もう恐怖しかなかった。
親に言っても相手にされず「それは幽霊の仕業だ」とからかわれ、逆に恐怖を煽ってくる始末。
そんな金縛りに遭うことが数度あり、幾ばくか耐性が付いてきた私は、この身近な心霊現象への恐怖が逆に興味に変わっていった。
なので、この金縛りが本当に幽霊の仕業なのか暴いてやろうと、ある実験を行ったのだ。
といっても、そう大したことではない。
持っていたカセットレコーダーに120分(片面60分)のテープをセットし、就寝前に録音ボタンを押す。
ただ、それだけである。
呆れられるかも知れないが、当時の私は「金縛りが幽霊の仕業なら、これで何かしらの痕跡が拾えるのではないか」と思ったのだ(現在なら、スマホやICレコーダーを録音モードにして寝るようなものである)。
そうして興味と「もし録れていたらどうしよう」という若干の恐怖と共に実験が始まった。
ここまで読んで、気付いた方も多いと思うが「今夜は必ず金縛りに遭う」なんて確証のある予測などありはしない。
なので、この実験は当てもなく何日も続く。
そして、こういうくだらない実験を始めた時に限って、逆に金縛りにはならないというのがお約束だ。
現に実験開始から2週間が過ぎたものの、金縛りになる気配は一向になかった。
そうして、いい加減実験をやめようと考え始めたある夜。
ついに(待ち焦がれていたというのもおかしいが)金縛りに遭った。
深夜に目が覚め、寝返りを打とうにも身体がまったく動かない。
しかし、視界は真っ暗な室内を見渡せる。
この事態に、カセットレコーダーの方を見ると、録音中の証拠にテープが回っているのが分かった。
よし、これで何かあっても音として証拠は拾える…と、私は金縛りのまま心の中でガッツポーズをした。
その状態のまま、どれくらいの時間が過ぎただろう。
気が付くと、すでに朝だった。
どうやらいつの間にか寝入っていたようだ。
身体は動き、特に異変は無い。
カセットレコーダーを見ると、テープは止まっていた。
すぐに検証すべく録音再生をしたかったが、とりあえず学校に行くしかないので、早々に朝食を食べ、学校へ。
そして、帰宅した時にはすっかり録音のことは忘れていた。
思い出したのは就寝前。
「そう言えば…」と、レコーダーでカセットテープを再生した。
当然だが、録音時間は120分…2時間しかない。
でも、私は金縛りの時にテープに録音されていたことは確認している。
その時間まで再生し、息を呑んで何か録音されていないか、聞き耳を立てる。
結果、特に何もなし。
テープには何も録音されていなかった。
完全に肩透かしだったので、私はこの実験を止め、金縛りへの関心も急速に失っていった。
それから、大体一年が経った頃。
金縛りには時々なるものの、幽霊を見たということもなくやり過ごしていた私を、一人の友人が学校で人気のない廊下の隅に呼び出した。
友人は辺りに人がいないのを確認しつつ、真顔で尋ねてきた。
「最近、変なことない…?」
漠然とした不可思議なその質問に、私は「別に何もないけど」と答えた。
すると、友人は少し安心したようになるが、すぐに真顔に戻った。
そして「良ければ一緒にお寺か神社にお参りして、お守りでも買おう」と言う。
奇妙なその提案に、私は友人に理由を尋ねた。
すると、友人は最初言い淀んでいたが、真剣な顔で言った。
「この前、借りた◯◯◯(←アーティスト名)のテープ、あったでしょ?あれを聴いててたら、最後のところに変な声が入っていたんだよね」
そのテープは、自宅にあった120分テープで、同じアーティストを好きになった友人のために、私が持っていた曲をダビングし、貸し出したものだった。
そして、その時に使ったのが(すっかり忘れていたが)金縛りの実験に使用したあのテープだった。
友人は私から借りたテープを自室でBGMとして流していたという。
で、夜中にうっかり寝入ってしまった。
その時、友人は金縛りに遭い、テープが無音のまま再生されているのに気付いた。
私は60分テープの片面だけに曲を入れておいたのだが、その曲をダビングした面の再生が終わり、何も入っていない…いや、あの実験の時の録音面がリバース再生になっていたわけだ。
そんな身動き出来ない友人の前で、回り続けるテープがこんな声を再生したらしい。
「むーだーだーよー…」
ゾッとなった友人によると、それはまるでレコードの再生速度が狂った時に聞くような、男とも女ともつかない低く不気味なかすれ声だったという。
私は実験のためにテープで金縛りの状態を録音したこと、その結果、何も録音されていなかったことを友人に話した。
友人は青ざめつつ事の次第に納得し、私にもそのテープを聞かせようとしたが、私は全力で拒否した。
当然だ。
そんなモノを聞いたら、金縛りの度に怖くて眠れなくなる。
そして後日、二人であるお寺にお参りし、テープを処分してもらったのは言うまでもない。
あれから時は過ぎたけど、今も金縛りに遭ったりすることはある。
でも、あの実験は絶対にやらないでいる。
何せ「無駄」らしいから。
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