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「本当にあった怖い話」シリーズ

カセットテープに録られたモノ

作者: 詩月 七夜
掲載日:2026/07/13

 皆さんは「金縛り」という言葉を耳にしたり、遭ったりしたことはあるだろうか?


 一般的に、金縛りは夜など寝ている時になる現象で、目は覚めているのに、体は一切いうことをきかず、身動きできない状態をいう。

 この現象は当時、霊感のある人間がなる確率が高いとされ、金縛りの時に幽霊などの妖しいモノを見たという報告が多かった。

 私が子供の頃は、今よりも心霊現象をテーマにしたテレビ番組が多く、金縛りもオーソドックスな心霊現象としてよく取り上げられていたものだ。

 それと、私が憶えている中には「10代の若者がなる確率が高い」「解けないと死ぬ」「古い血筋の人間はなりやすい」という噂も流れていた。

 しかし、実際には金縛りは心霊現象ではなく、脳は起きているのに身体は眠っている「レム睡眠」の状態が続くことで起こる医学的な現象(睡眠麻痺)とされる。

 主な原因には、睡眠不足や不規則な生活、疲労や強いストレス、仰向け寝などが挙げられている。

 この金縛りだが、私自身、経験は何度もある。

 初めてなったのは、中学生になってすぐだ。

 自分の部屋というものを初めてもらい、そこは和室だったけどベッドを置いてもらった。

 で、そこで一人で就寝するようになってしばらくして、深夜に覚醒したけど身体がまったく動かないという事態になり、激しい恐怖を感じたのを今も記憶している。

 真っ暗な室内で身動きがとれず、視界だけは自由がきくという異様な感覚は、初めて経験した私を混乱させた。

 声も出せないから、助けも呼べない。

 そうこうしているうちに何かが近付いてきたり、私の顔を覗き込んだりしたら…と考え、もう恐怖しかなかった。

 親に言っても相手にされず「それは幽霊の仕業だ」とからかわれ、逆に恐怖を煽ってくる始末。

 そんな金縛りに遭うことが数度あり、幾ばくか耐性が付いてきた私は、この身近な心霊現象への恐怖が逆に興味に変わっていった。

 なので、この金縛りが本当に幽霊の仕業なのか暴いてやろうと、ある実験を行ったのだ。

 といっても、そう大したことではない。

 持っていたカセットレコーダーに120分(片面60分)のテープをセットし、就寝前に録音ボタンを押す。

 ただ、それだけである。

 呆れられるかも知れないが、当時の私は「金縛りが幽霊の仕業なら、これで何かしらの痕跡が拾えるのではないか」と思ったのだ(現在なら、スマホやICレコーダーを録音モードにして寝るようなものである)。

 そうして興味と「もし録れていたらどうしよう」という若干の恐怖と共に実験が始まった。

 ここまで読んで、気付いた方も多いと思うが「今夜は必ず金縛りに遭う」なんて確証のある予測などありはしない。

 なので、この実験は当てもなく何日も続く。

 そして、こういうくだらない実験を始めた時に限って、逆に金縛りにはならないというのがお約束だ。

 現に実験開始から2週間が過ぎたものの、金縛りになる気配は一向になかった。


 そうして、いい加減実験をやめようと考え始めたある夜。

 ついに(待ち焦がれていたというのもおかしいが)金縛りに遭った。

 深夜に目が覚め、寝返りを打とうにも身体がまったく動かない。

 しかし、視界は真っ暗な室内を見渡せる。

 この事態に、カセットレコーダーの方を見ると、録音中の証拠にテープが回っているのが分かった。

 よし、これで何かあっても音として証拠は拾える…と、私は金縛りのまま心の中でガッツポーズをした。


 その状態のまま、どれくらいの時間が過ぎただろう。


 気が付くと、すでに朝だった。

 どうやらいつの間にか寝入っていたようだ。

 身体は動き、特に異変は無い。

 カセットレコーダーを見ると、テープは止まっていた。

 すぐに検証すべく録音再生をしたかったが、とりあえず学校に行くしかないので、早々に朝食を食べ、学校へ。

 そして、帰宅した時にはすっかり録音のことは忘れていた。

 思い出したのは就寝前。

「そう言えば…」と、レコーダーでカセットテープを再生した。

 当然だが、録音時間は120分…2時間しかない。

 でも、私は金縛りの時にテープに録音されていたことは確認している。

 その時間まで再生し、息を呑んで何か録音されていないか、聞き耳を立てる。


 結果、特に何もなし。

 テープには何も録音されていなかった。


 完全に肩透かしだったので、私はこの実験を止め、金縛りへの関心も急速に失っていった。


 それから、大体一年が経った頃。

 金縛りには時々なるものの、幽霊を見たということもなくやり過ごしていた私を、一人の友人が学校で人気のない廊下の隅に呼び出した。

 友人は辺りに人がいないのを確認しつつ、真顔で尋ねてきた。


「最近、変なことない…?」


 漠然とした不可思議なその質問に、私は「別に何もないけど」と答えた。

 すると、友人は少し安心したようになるが、すぐに真顔に戻った。

 そして「良ければ一緒にお寺か神社にお参りして、お守りでも買おう」と言う。

 奇妙なその提案に、私は友人に理由を尋ねた。

 すると、友人は最初言い淀んでいたが、真剣な顔で言った。


「この前、借りた◯◯◯(←アーティスト名)のテープ、あったでしょ?あれを聴いててたら、最後のところに()()()が入っていたんだよね」


 そのテープは、自宅にあった120分テープで、同じアーティストを好きになった友人のために、私が持っていた曲をダビングし、貸し出したものだった。

 そして、その時に使ったのが(すっかり忘れていたが)金縛りの実験に使用したあのテープだった。

 友人は私から借りたテープを自室でBGMとして流していたという。

 で、夜中にうっかり寝入ってしまった。

 その時、友人は金縛りに遭い、テープが無音のまま再生されているのに気付いた。

 私は60分テープの片面だけに曲を入れておいたのだが、その曲をダビングした面の再生が終わり、何も入っていない…いや、()()()()()()()()()()がリバース再生になっていたわけだ。

 そんな身動き出来ない友人の前で、回り続けるテープがこんな声を再生したらしい。


「むーだーだーよー…」


 ゾッとなった友人によると、それはまるでレコードの再生速度が狂った時に聞くような、男とも女ともつかない低く不気味なかすれ声だったという。

 私は実験のためにテープで金縛りの状態を録音したこと、その結果、何も録音されていなかったことを友人に話した。

 友人は青ざめつつ事の次第に納得し、私にもそのテープを聞かせようとしたが、私は全力で拒否した。

 当然だ。

 そんなモノを聞いたら、金縛りの度に怖くて眠れなくなる。

 そして後日、二人であるお寺にお参りし、テープを処分してもらったのは言うまでもない。


 あれから時は過ぎたけど、今も金縛りに遭ったりすることはある。

 でも、あの実験は絶対にやらないでいる。

 何せ「無駄」らしいから。

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例年、開催される「夏のホラー企画」で紹介した過去の作品を「本当にあった怖い話」シリーズとしてまとめております

本作を気に入っていただけたなら、本ページ最上部の文字リンクからジャンプできますのでお楽しみください

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― 新着の感想 ―
金縛りか…幸い自分はかかった事はないけど、無駄無駄無駄ァ!は怖い。 意識あるけど動けない事は一度ありましたね。 斜視の手術が全身麻酔だったんですが、 手術中に麻酔不足で起きる→医者と看護師たち…
おおぅ…… もしやこの夏は、一人百物語を? ほんのりノスタルジックな叙情的ホラーから、ちょっとずつ夜中一人で思い出すと困る、身近なリアリティが効いた感じに。
一体全体何がどう『無駄』だったのでしょう? とりあえず、金縛りにあったとしてもそのまま寝てる方が良いのでしょう(;^ω^)
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