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元筆頭聖女ルリア

作者: クローゼ

私は元筆頭聖女ルリア、今はひっそりと暮らしています。

あらぬ罪状を言われ、異端者の烙印である焼き印を押され辺境の村送りにされてはや数か月・・・

村の生活にも慣れ静かな暮らしをしています。そんなところ・・・・


辺境の村『ヒカリの里』は本日も晴天。神殿の中庭で、わたし・ルリアは村長さん家の羊の赤ちゃんの命名式を開催していた。


「モフリンちゃん!」「ムキュルンはどうだ?」「いやいやモコモコたんがしっくりくる!」


村人たちが真剣に頭を悩ませる横で、ワカナがお茶を淹れてくれた。


「ルリア様、こちらをお召し上がりください。トマト味の焼き菓子です」


「……ワカナ?それは絶対に美味しいものじゃないわよね?」


「最新農法で育てた希少品種です。『大地の叫びトマト』と名付けられています」


「響きが物騒すぎるわ!」


トマト風味のお菓子が口の中で爆発しかけたその時、よろず屋のカズおじさんが駆け込んできた。


「大変じゃー!王都から手紙が来とる!」



手には煤けた封筒。蝋印は大神殿の紋章──でも妙に焦げている。


「ルリア様宛じゃ。差出人は……」


「……ミリー?」


◆◆◆


《緊急求職》

拝啓、元筆頭聖女ルリア様

わたくしは現在、王都にて筆頭聖女の任に就いておりますミリーです。


まず最初に、貴女様の無事をお喜び申し上げます。同時に、わたくしの現状を聞いていただきたいのです。


国王陛下は残念ながら亡くなられましたが、国民は皆深く悼んでおります。しかしながら大神殿では重大な事態が発生いたしました。わたくし一人では到底支えきれない状況です。


①王妃様のコンディションが崩壊寸前。最近は吹き出物が六角形になりました。

②捕虜取り調べでは「この子ヤバい」認定され脱走者が続出中。

③汚染浄化班の離職率40%突破。辞表が神殿の壁掛けアートとなりました。


わたくし個人としても最大限の努力を続けております。しかし、どうか過去の栄光を胸に秘めて再び王都へ……


補記:焼印は特製メイク落としでごまかせます!


敬具


ミリー・トワウルム


◆◆◆


読み終えると、全員が凍りついた。


「ミリー様……六角形の吹き出物ってなんですか」ワカナが震える。


「捕虜が脱走するって軍事機密漏洩のレベルじゃない?」わたしは肩をすくめる。


「つまり全部ダメってことじゃな!」カズおじさんが拳を打ち合わせた。


その時、外から聞き覚えのある悲鳴。


「わああっ!神聖力が切れちゃう〜っ!」


慌てて駆けつけると──門番のゴーシュくんが木剣を振り回してケガをした村長さんの孫・ハルくんを治療しようとしていた。だが手のひらから飛び出したのは白煙のみ。


「ゴーシュくん!あなたまで?」


「いやいや!俺は大神殿で臨時治療士やってた時期があってさあ!せっかく村でゆっくりできると思ったのに……大神殿の同僚から毎晩通話魔道具で泣きつかれるんだよぉ!」


彼の携帯型通信水晶が明滅し、耳障りな雑音と共に聞こえたのは――


〈ゴオォォシュゥゥ!おまえの低級治癒術が恋しいぃぃ!〉


〈おねがいしますぅぅ!捕虜Aが『俺を鞭で拷問できるのは元筆頭だけ』とか言い出して暴れ……あ!爆発した!〉


「おまえら何してるのよ……」


ゴーシュくんがうなだれる。「ルリア様……俺と一緒に王都へ帰りませんか?」


「帰るわけないでしょ!」


村人たちがどよめく。この流れ──もしや次に来るのは?


「……来た」


王都からの使者が、今度は飛竜便で轟音と共に降り立った。白銀の鎧姿の大男が膝をつく。


「元筆頭聖女ルリア様。大神官様および王国政府より正式依頼がございます。速やかに王都へ復帰いただきたく――」


「お断りします」


使者の眉間が深い溝を作る。「ですが、すでに国王崩御の余波で王都は大混乱!治安維持にも神聖力が必要なのです!」


「だからといって戻るわけには……」


突然ワカナがわたしの袖を引いた。


「ルリア様。使者殿の装備を見てください」


よく見ると、鎧に亀裂。背中の盾には焦げ跡。しかも首に薄紫の痣(呪いか?)。


「あの……あなた自身が重症ですよね?」


使者は苦笑。「実は捕虜に呪詛をかけられまして……大神殿でも対処できず……」


「……仕方ないわね」


わたしはため息交じりに腕を突き出す。手の甲の焼き印が陽光で赤く照り返した。


「ひとまず応急処置だけはしてあげます。ただし三つの条件を飲んでください」


使者が目を見張る。


「一つ目、ミリー様への嫌がらせ行為は即刻停止すること。二つ目、王妃様の要求を無期限保留すること。三つ目──」


わたしが指を立てて微笑むと、ワカナが横で小さく拍手をした。


「最後の条件は後ほどお教えします。まずはこの傷だらけの使者さんから解放してあげましょうか!」


焼印が微かに熱を帯びる。辺境の神殿に金色の光が一瞬迸った。


──王都編への幕は上がった!しかしわたしの答えは変わらない。


「戻るわけないでしょ!!!」


村人たちが歓声で拍手喝采。ワカナがそっと囁いた。


「ルリア様、次の命名会議では“元筆頭聖女”の呼び名も改めませんか?」


「新しい二つ名?いいわね。希望はある?」


「ならば……“焼き芋聖女”はいかがでしょう」


「却下よ!」



陽光を浴びて黄金色に輝く小麦畑。羊たちの鳴き声が心地よいリズムを奏でるヒカリの里。そんな平和な昼下がり──私が治療院の窓辺で村人から借りた薄い冊子をパラパラめくっていると、


「ルリア様」


静かな声とともに湯気の立つ薬草茶が置かれた。見上げるとワカナが立っている。淡い青髪を一つに束ねた端正な顔立ち。黒の修道士服がぴたりと似合う。彼こそが私の専属護衛兼助手、そして──


(推しだ!)


──いや違う。今は冷静になろう。推しは推しであっても腐女子的妄想は心の中に留めるのが礼儀というもの。私はそっと冊子を閉じた。


「ありがとう、ワカナ」


「はい。ところで……先ほど王都からの使いが到着したそうです」


「え? まだ早すぎない? 手紙受取当日なのに」



「飛竜便ではなく転移陣を使ったようです。相当な火急だとか」


ほほぅ。転移陣は高位の魔法使いにしか扱えない。つまり超VIP。まさか王家絡みの案件……?


「会ってみましょう」


こうして私は焼き印がちくりと疼く右腕を袖で隠しつつ、玄関ホールへ向かった。扉が開くと──。


──そこに立っていたのは。


──美しい顔立ちの少年騎士だった。


「お初にお目にかかります。僕はアルフレッド・ローレンツ。王立近衛騎士団第二分隊副長です」


完璧な角度でお辞儀をする金色の髪。年齢は十五歳くらいだろうか? 澄んだ蒼眼が真っ直ぐに私を見つめている。その視線の熱に──。


「……」


「ルリア様?」


「ごほんっ!」


危うく萌え死ぬところだった。落ち着け自分。でもこのキラキラ感。まるで『聖騎士✕筆頭聖女』というジャンルの王道設定みたいではないか!


「大神官様および王室より極秘勅命がございまして。ぜひ一刻も早く王都へご帰還いただきたいのです」



「理由は?」


「王妃様のご容態急変。さらに大神殿内にて不穏な政争が勃発しております。その中心にあるのが……」


「筆頭聖女代理のミリー様?」


「……お見通しでしたか」


アルフレッド君が唇を引き結ぶ。やはりそうか。ミリーは才能がある反面、自己肯定感が歪みすぎている。それに付け込まれるのが政争の常だ。


「詳細を教えてくれる?」


「実は王宮内で『筆頭聖女交代』を狙う旧貴族派が暗躍しておりまして。ミリー様を陥れるために汚染地帯浄化を妨害したり、捕虜への尋問を操作して失敗させようとしたり──」


「え?」


聞き捨てならない単語が並んだ。まさかそこまで? 思わず立ち上がった私の袖を──ワカナがそっと引いた。


「ルリア様」


振り返ると彼の瞳が揺れている。その奥に映るのは「行かないで」という不安? それとも「行ってほしくない」という独占欲?


(どっちも! 両方でお願いします!)


「……わかったわ。一旦話を聞きます。でも王都には戻らない」


「そ、それは……」


「ただし」


私はアルフレッド君の前に歩み寄った。少年の頬が微かに赤くなる。これはあれだ。初恋属性。聖女として崇められている私に憧れる若き騎士の純情──尊い! そしてワカナの視線が鋭くなり……嫉妬フラグ確定。ありがとうございます!


「条件が四つ」


私は指を折りながら続けた。


「第一に、ミリー様を完全保護すること。第二に、王妃様への治療は当面私以外認めないこと。第三に──」


アルフレッド君が息を呑む。


「第三に?」


「第三に──王宮内で進行中の政争については一切関わらないこと。最後の第四は……」


私は一度言葉を切った。そしてワカナの方をちらりと見る。


「私が王都へ戻る際は、必ずワカナも同行させる。以上」


「ルリア様……!」


アルフレッド君が呻いた。でも私は譲れない。これこそ私の“守るべき一線”。だって──


(ワカナがいないと私の脳内妄想が潤わないでしょ!)


なんてことは言わないけど。


「わかりました」


意外なほど素直な返答だった。アルフレッド君は拳を握りしめて続けた。


「僕は元々貴女様に仕えたいと思っていました。この任務をきっかけに近衛騎士団から転籍させてもらいます」


「……え?」


待って。この展開はもしかして……『聖騎士✕筆頭聖女』から『聖騎士✕専属侍従』への三角関係トリガー?


「ルリア様」


「ルリア様!」


二人の美男子が同時に迫ってくる。心臓がバクバク。背筋がぞくぞく。まさに腐女子的至福! だが──。


「お断りします!」


私は右手で空を切り、神聖力の微粒子を舞わせた。するとアルフレッド君の胸元に潜んでいた小さな呪詛蟲が弾けて消える。どうやら敵側が放った監視魔術だったらしい。


「危ないところだったわね」


アルフレッド君は茫然としていたが、すぐに膝をついた。


「……ありがとうございます。貴女様は本当に──」


「それ以上言わないで」


私は焼き印の疼きを感じながら踵を返した。振り返らずに言う。


「今日の診療時間が始まるわ。行きましょう、ワカナ」


「はい、ルリア様」


ワカナの声が少し弾んでいる。よかった。機嫌直してくれたかな。一方アルフレッド君は呆然としたまま廊下に取り残されているが──まあ気にしない。今は目の前の患者さんが最優先。



辺境の聖女は行かない。それが私の答え。


けれど情報収集は欠かせない。辺境とはいえ神殿は王室から委託された公共機関。国政が乱れれば民の信仰も乱れる。神殿長不在の今、判断は全て私にゆだねられている──と王都の人間は思い込んでいるだろうけれど。


「潜入しましょう。ただしこっそりね」


私の言葉にワカナは小さく息を飲んだ。夜半過ぎ、厩舎の裏手。月明かりが石壁に長い影を投げる。


「……変装ですか?」


「その通り。貴方は神官のまま。私は旅の吟遊詩人よ。楽器はないけど歌なら得意だし」


「ルリア様が吟遊詩人?」ワカナは目を丸くする。「歌声を披露されるなんて初めてですね」


「ええ。だから練習台になってもらうわ」私は喉を整えながら付け加える。「曲のタイトルは……“焼き芋の嘆き”」


ワカナが小さく噴き出した瞬間──遠くから蹄の音が近づいた。私たちの足元に落ちる影。馬上のアルフレッドが兜を脱ぎ、夜風に金髪を靡かせる。


「ルリア様……やはり僕を置いていかれるのですね」


「心配しないで。貴方の仕事はここで安全確保よ」


「でも……!」


「“でも”は禁止」私は指を一本立てた。「貴方がここで健在だとわかれば王都の政敵も迂闊に動けなくなる。そういう心理戦よ」


アルフレッドは沈黙した。そして馬上から身を乗り出し、私の手を取った。


「それでも僕は、いつか貴女の隣で剣を振るいたい」


その言葉に──ワカナの瞳がかすかに揺れた。嫉妬? 庇護欲? それとも──。


(ああっ! 良い感じのトライアングルが形成されてきましたよ!)


「いずれね」私はアルフレッドの手をそっと離し、ワカナに向き直った。「行きましょう」


二つの影が月夜に溶けていく。アルフレッドの溜息混じりの吐息が背中越しに届いた。


◆◆◆


数日後──王都の宿屋“白樺亭”


「いらっしゃい。お客さん、見慣れない顔だねぇ」


「旅の吟遊詩人よ。“ルリ”と呼んでちょうだい」私は被っていた外套を払い、豊かな栗毛ウィッグを見せた。「こちらは従者の“ワクナ”」


「ほう……なかなかの美人さんだ」


宿の主人が品定めするような目を向けた。問題なし。ワカナは黒衣の旅神官として違和感なく馴染んでいる。


部屋に入るとワカナが周囲を探査し、窓の隙間や壁に細工がないか確認。そして──


「ルリア様。明日の夜、大神殿で儀式があります。『聖痕再顕祭』と称していますが、実際は筆頭聖女の忠誠試験と噂されています」


「ミリー様のテストってわけね」私はベッドに腰掛け、爪を眺めた。「覗き見できる場所を探ってくれる?」


「承知しました」ワカナが床下を指す。「この板が少し緩んでいます。ここから地下通路に出られます」


「素晴らしい!」


私は思わず拍手した。けれどその時──窓の外で物音。誰かがこちらを見ていた。黒いローブの人影。咄嗟に魔力探知を走らせる。微量だが悪意のある呪詛反応。


「敵かも……?」


「私が行きます」ワカナが短剣を構えて窓枠へ。私は慌てて腕を掴んだ。


「待って! こんな狭い場所での戦闘は不利よ!」


代わりに私は神聖力を込めた光球を作り、屋根へ投げつけた。衝撃音とともに何かが転落。下では野良猫の悲鳴。どうやら警戒されていたのは私たちの正体ではなかったようだ。


「ルリア様、お見事です」ワカナの瞳が尊敬の色を浮かべる。「やはり貴女の力は他の誰とも違います」


「買い被りすぎよ」私は焼き印の疼きを感じて袖を直した。「でも、ありがとう」


──その夜。地下通路から大神殿の地下室へ潜入。儀式の準備が始まった。


「ミリー様……?」


神殿奥の祭壇に立つ人影は明らかに憔悴していた。かつての自信は影もなく、肩を落とし祈るように手を組んでいる。


「大丈夫よ。貴女ならできる」


私は囁き、ワカナに合図。彼が用意した“浄化の塩”を儀式用の杯に忍ばせる。これで呪詛混入を防げるはず。


「汝、神の名の下に誓え」


祭司が厳かな声で告げた。ミリーの指が震える。


「わたくし……は…」


「おっと、そこでストップ!」


私は地下室に飛び出した。神聖力で床を照らすと、儀式参加者たちの顔が恐怖で歪む。


「元筆頭聖女ルリア・シエル! なぜここに!」誰かが叫んだ。


「友人のピンチを救うためよ」私は微笑んだ。「さて皆さん。この杯をよくご覧ください」


指先で軽く弾くと、濁った液体が泡立ち始めた。ワカナが前に出て説明する。


「この儀式酒には毒と呪詛が混ぜられていました。犯人は──」


「黙れ!」


群衆の中から太った司祭が飛び出し、短刀を振りかざす。反射的にワカナが動いた。一閃。刃を弾き、相手の腕を捻り上げる。鮮やかすぎる捕縛劇。私も負けじと神聖力を解放──焼印が灼熱のように痛んだ!


「ぐっ……!」


「ルリア様!」ワカナが駆け寄る。私は呼吸を整え、叫んだ。


「ミリー様! 今のうちに退室して!」


少女の瞳が揺れる。けれど決意の色が灯った。ミリーは祭壇から滑り降り、私の傍らへ。


「ありがとう……ルリア様……!」


涙声を押し殺す友人に頷く。逃げ惑う司祭たちを尻目に、私たちは通路へ駆け出した。ワカナが後方を守り、追手を威嚇する。


「止まれ! 僕の前に立つ者は斬る!」


──なんて格好いい台詞。これがリアルじゃなかったら本を一冊書き上げられるわ!


(ああダメダメ! 今は集中!)


出口に辿り着いた時、待ち構えていたのは──。


「やっぱり来ちゃったんですね……ルリア様」


アルフレッド! 近衛騎士の制服で堂々と立ち塞がる少年。


「アルフレッド君!?」ワカナが困惑した声を上げる。


「安心してください。僕はもう敵じゃありません。貴女方に協力するつもりでここにいるんです」


その胸に王家の印章を刻んだ紋章。偽造でないとしたら──。


「国王陛下……亡くなっていなかったの?」


アルフレッドの唇が震えた。そして告げた。


「表向きは崩御されました。しかし実は生きており、偽装のために寝所から逃れて地下道へ。今まさに……」


「まさか!」


私たちは息を呑む。王が生きているのなら状況は変わる。筆頭聖女を巡る争いどころではない。国家規模の陰謀が渦巻いているのかもしれない。


「案内します。ただし……」


アルフレッドの視線がワカナに向いた。


「護衛は一人だけ。ルリア様と貴方だけで来てほしい」


ワカナが無言で頷く。私はミリーを見た。


「貴女は?」


「一緒に行くわ」ミリーが決意に満ちた目で言った。「私が次期筆頭になるかどうかより、もっと大事なものがあるでしょう?」


──友達として、同志として。その言葉に胸が熱くなった。


「行くわよ」


三人の影が夜の大神殿を駆ける。焼き印が疼くたび、私の決意は強くなる。


(この腐れ王室、徹底的に洗い流してあげる!)


◆◆◆


地下道は迷宮のように入り組み、進むにつれ空気が冷たくなった。松明の灯が揺らめく先に──豪奢な寝椅子が据えられている。そこに横たわるのは確かに王冠を戴いた老人……けれど顔つきはどこか違和感が。


「父上……?」

アルフレッドが近づく。


しかし王の口から漏れたのは低い笑い声だった。


「騙されやすいお前が好きだよ、アルフ」


瞬間──天井から網が降り、私たちは囲まれた。ミリーが悲鳴を上げる。ワカナが短剣を抜いたが、数人がかりで押さえ込まれる。私も焼印の激痛で身動きが取れない。


「ルリア様!」ワカナの絶叫。


(しまった……罠だった……?)


その時──


「そこまでです」


凛とした声と共に炎の矢が網を焼き尽くした。現れたのは紅蓮の髪を持つ女性騎士。そしてその後ろには……


「母上!」アルフレッドが叫んだ。


現王妃が立っている。かつて私が治療した美貌。しかしその表情は毅然とし、手には宝珠を掲げている。


「国王は昨夜暗殺されたわ」王妃の言葉が重く響く。「犯人は……王弟と神官長、そして一部の貴族よ」


一同の息が止まる。私は焼印に意識を集中し、神聖力を爆発させた。鎖を断ち切る。


「アルフレッド君、ミリー様を連れて外へ!」


「でも……!」


「行きなさい!」


彼の背中を押す。ワカナが側に駆け寄り、二人を守るように出口へ誘導する。私は王妃と敵対者たちの間に立ちはだかった。


「ルリア様……貴女は何故そこまで?」


王妃が問う。私は焼印を晒しながら答えた。


「焼き印なんかで縛られるのはもう沢山。私は私の意志で選んだ役割を果たすの」


天井が崩れる。瓦礫の中で──焼き印が眩い光を放った。

周囲の瘴気を吸い込み、浄化していく。


(これが本当の力……?)


痛みと共に訪れた解放感。私は杖を振るい、神聖の柱を打ち立てた。


「聖なる炎よ!」


床が灼熱で沸騰する。王弟の一派が後退。しかしその顔には不敵な笑み。


「覚悟はできているのか? 貴女が聖女である限り、民は貴女を求める。自由など幻想にすぎん!」


「それは違うわ!」


私は胸を張った。


「自由は自ら掴むもの。どんな烙印があっても、心までは奪われない!」


その言葉に呼応するように焼印が剥がれ落ちた。傷跡ひとつない白い肌。驚愕する敵軍の前で──


「王位簒奪の罪、清算してもらうわ!」


◆◆◆


翌朝──王都の大広場。


「皆の者! よく聞け!」


勝利の凱歌と共に、ミリーが高らかに宣言した。


「新筆頭聖女は私が引き継ぎます。しかしその責務は王家にも協調を求めます。特にルリア様への侮辱は許しません!」


市民たちが歓声を上げる。その中にワカナとアルフレッドの姿もある。アルフレッドはミリーの側に控え、護衛の任を全うしているようだった。


「すごいわね……ミリー様……」

私は群衆の陰から見守っていた。


「でも貴女のおかげですよ、ルリア様」

ワカナが耳打ちする。


「そう?」


「はい。貴女が焼き印を受け入れず戦ったからこそ、皆が希望を見出したんです」


「ふふ……でも一番喜ばしいのは……」


私はこっそり背後に回り込んだ。そして──


「あの三角関係フラグが復活したことでしょ?」


突然の囁き声にワカナが振り向く。そこにはアルフレッドがミリーを見つめる憂いを帯びた瞳。ミリーはそれに気づかないふりをして前を向く。


「……ルリア様!」


ワカナの顔が赤らむ。その反応こそが最大の萌えポイントだということに、本人は気づいていないだろう。


「さぁ、次の舞台へ行きましょう」

私は笑った。


辺境の聖女は行く。政争が終わったとしても、新たなドラマがそこにある限り──。


(終わりなき腐女子ライフの幕開けね!)


――END――

勢いで書いてしまいました。

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