18/38
"A beer and an oolong highball, please."
たまにではあるが、Bar RAINに普段は珍しい顔ぶれが現れる。
その夜は、扉が開くなり、学生らしい三人組が元気よく入ってきた。
「ビールとウーロンハイ!」
カウンター越しにやや大きめの声でオーダーを告げ、
「あと何かつまみも、何があるかな?」と笑い合っている。
夕子さんは、いつもと変わらぬ調子で「かしこまりました」と応じた。
その声色に、常連への接し方と何ら変わりはない。
彼らは、居酒屋とバーの違いも、きっとまだよく知らないのだろう。
もっとも、度を越して他の客の会話を邪魔するようなら、
この店にも雷は落ちる。
それは夕子さんの笑顔の奥にある、静かな線引きだ。
幸いその夜は、彼らも次第に声を落とし、
グラスの中の氷が溶ける音を聞くくらいの余裕を覚えたようだった。
学生たちの笑い声が和らぎ、店内の空気に溶け込んでいくのを見て、
僕は少しだけほっとした。
Bar RAINは、誰のための場所でもあり、
同時に、その夜を静かに守る場所でもあるのだ。




