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第3章 夕日が落ちるまで、遊ぼう

二人が出口を降りた先は長閑な場所であった。標高もかなり高く、冷たい空気が星と空の肺を刺しているようだ。

「とりまチェックインしなきゃだね」

「……うぅ…」

声になっていないような声で星が答えた。まだ眠いようだ。

キャンプ場の入り口にある小屋に入ると、見事な白髪の男性が一人立っていた。恐らくこのキャンプ場を長年営んできたのだろう、チェックインの作業を手慣れた手つきで進めていく。

その男性によると、今年の春は例年よりも寒さが厳しいせいでお客さんも格段に少ないらしい。今日も空と星の一組だけだそうだ。偶然にも貸切になったことに喜びを覚える。

「あの…[星]は見えますかね?」

凍えるような空気のせいか、すっかりと目が覚めた様子の星が尋ねた。

ここの管理人の男曰く「今日は空気も澄んでいるし、天気も良いから綺麗に見えるだろう」との事だった。楽しみだね、と言いあって二人で微笑みあった。

二人は管理人にお礼を言い小屋を出ると、早速テントの設置に取り掛かった。空は幸い幾度か経験がある上、今日のために素早くテントを設置する方法をYouTubeで繰り返し見てきた。しかし、星は初めてであるのでかなり手間取っている様子だ。殆どテントの設置が終わった空が「手伝おうか?」と声をかけると、「お願い!」と、間髪を入れずに返ってきた。どうやら空の手伝いを待ち侘びていたようだ。

「ここの部分をね…」そう言って空は説明を始めた。星は時折頷きながら空の指示の下作業を進めていく。

「あっ」

ふと、説明をしてようとした空の手と作業をしようとした星の手が重なり合った。

二人は少しばかりの間、見つめあっていたが、我を取り戻した空が「ごめん」と言って手を引いた。

星も恥ずかしげに下を向いたままだ。

恋愛小説のテンプレとも言える場面に空はすっかり赤面してしまった。

ふと、空は何処からか視線を感じた。

周りを見渡すと、小屋の前で、ここの管理人のあの男がこちらを見てニヤニヤと笑っている。ここからその小屋まではそう距離は遠くない。恐らく、初めから二人のことをそっと見ていたのだろう。

その男と空の目が合うと、隠れるように小屋の中へ入って行ってしまった。盗み見をされ、水を差された気がして気分が悪くなったが、空は小さな溜息をひとつ吐くと、再び作業へと戻った。

二人は小屋にあった薪を使って夕食を作ることにした。

「じゃあ、今から夕ご飯を作るよー」

「おーっ」星が歓声に近い声をあげる。

「キャンプの定番料理といえばなーんだ?」空が聞くと、

「え、キャンプの定番?えーと…マシュマロ!」

「まぁ、マシュマロもそうだけど、メインディッシュじゃないでしょ?」

「あ、そっか。じゃあ…ホタテとか?」

「………。」

思わぬ答えに空は何も言葉を発することが出来なかった。第一、海のない長野県にわざわざホタテを持ってきてキャンプで食べる物好きなどいるわけないだろう。

まさか、これが彼女なりのボケなのかと思い、星の顔を見たが割と真面目そうな表情だ。二人の間でまたも沈黙が訪れる。

「…えっ、私、なんか変なこと言った?」星が不安そうな声で言った。

「うん、変なことしか言ってないね。キャンプの定番といえばカレーでしょう?」

「そうなの?初耳…」星はキョトンとしている。

「まぁ…良いよ。とにかく、カレーを作るよ」

「はぁーい」星が間延びした声で応える。

こうは言ったものの、時短のために予め下ごしらえしてある具材を軽く炒めて、カレールーを加えるだけなのだが。

作っていると、芳しい野菜の甘い香りと、カレールーのスパイシーな香りが一面に漂った。食欲はそそられるが、周りの銀世界にはマッチせずに浮いているように感じた。

キャンプカレーが出来上がったので、早速食べることにした。

「召し上がれ」と言い、空特製のキャンプカレーをお皿に注いで星に手渡した。

「美味しそうだね!」と言い、星は直ぐにカレーを口に運んだ。

「どう…?」空は恐る恐る訪ねた。

星は「………辛っ!」と言い、水筒の水を一気に飲み干した。

「えぇ、これでも中辛だよ?」と言い、空も急いでカレーを口に入れてみた。

「え、全然普通じゃん。辛くはないよ…?」

「いや、私、辛いの全くだめなのよ。家でカレー食べる時は絶対に甘口だし」

「辛いの無理だったの!?もっと早く言ってよ…」これは空も初耳だった。星はその後も少量のカレーを食べてはかなりの量の水を飲んで辛さを我慢しているようだ。

空は内心、カレーにしなければよかったな、と後悔していた。

空はカレーをぺろりと平らげ、星もなんとか完食した。

その頃には、天も日中の明るさを殆ど失っていて、何処かの天体が地球に向かって笑顔を振り撒いているかのように眩い光を放っていた。

「少し、周りをお散歩でもしない?」星が誘ってきた。

「良いね!ここよりも[星]がよく見える場所があるかもしれないし」と空も賛同し、二人は一緒に歩き始めた。

寒さのせいなのか、口が重く感じられ、会話もなかなか弾まない。少なくとも空には、星に言うべきことがあるのに…。

暫く無言で歩いていると、崖のような開けた所へ出た。星と空はそこの先端へと立った。地上からの距離はかなりあるように感じた。そのせいか、何故だか空は恐怖を覚えた。

「ねぇ、別の場所に行かない?」

空がそう言って今来たばかりの道を戻り始めたが、星の気配はない。

「星?」と言い、後ろを振り返った刹那、地面からに激しい衝撃を受けた。

一瞬…、ほんの一瞬だけ、星の姿を捉えることが出来た。がしかし、もう次目を開けた時には星の姿は無くなっていた。何が起きているのか、彼にも理解が追いつかない。ついさっきまで星がいた所へ走ろうとした瞬間、今度は上から重い衝撃を受け、倒れ込んでしまった。先ほどまで、二人がいたのは銀世界のはずだったが、一瞬にして一面は真っ黒へと化してしまった。空は闇の世界へ葬られてしまったように感じた。                   




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