表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第2章 世界中の何よりも、キミが綺麗だ

新幹線を降りると、ひんやりとした空気が二人を出迎えた。

「ひゃー、さむいぃー」星が悲鳴のような声を出した。

駅に設置してある温度計によると、現在でも3度らしい。北風も強く吹いているので、体感ではますます冷たく感じてしまう。テレビでは地球温暖化だのなんだのと言われてはいるものの、今年の冬は例年よりも圧倒的に寒くなっていた。だから、午後1時である今もこんなに寒いのだ。

「そういえば、お腹すいたね」星が声を震わせながら言う。先ほどの新幹線の中では、思ったよりも会話が盛り上がったため昼食を食べていなかったのだ。

丁度、キャンプ場へと向かうバスが来るまで30分ほどの時間があった。昼食をとるにはいい感じの時間なので、二人は長野駅の前の広場のベンチでお弁当を食べることにした。

「はい、これ!」と星は空にお弁当を手渡した。空のために星が作ってきてくれたのだ。中身を見ると、色とりどりの具材がぎっしりと詰まっていた。家庭科の教科書にお弁当の見本として載っていてもなんら違和感はないだろう。

「うわぁ、美味しそう…」空の口から自然とそんな言葉が出た。

「食べてみて?」と促され、いただきます、と心を込めて丁寧に言うと、空は1番目立っていただし巻き卵を頬張った。

「え…美味しい…!」

実は、空は卵が大の苦手なのだ。にもかかわらず、その美味しさに彼は驚いてしまった。好きな人が作ると、同じ料理でもこんなに美味しいものへと変貌してしまうのか…。他の料理も美味であったので、空はますます箸が進んでしまった。

「そんなに急いで食べなくても、お弁当は逃げはしないわよ」と星が空を見て高らかに笑った。

「だって…美味しいんだもん」

「そう、それなら良かった」と星は空が食べている様子を見てご満悦の表情をしていた。空と星は高校でも同じクラスであるが、案外、星のことを狙っている男子は多い。空はそんな他の男子たちのことを思い、こうして星のことを独り占め出来ている事を嬉しく思った。この時間が永遠に続けばいいのに…。空はそう思わずにはいられなかった。


昼食を食べ終わり、バス停へ向かうと、丁度定刻通りにバスが到着した。空は念のためSuicaの残高を確認した。田舎のバス代を馬鹿にしてはならないことを空は知っていたからだ。東京の場合は一つの区間が短いのである程度乗っていてもそこまで高くはならないが、田舎だと、その区間が長くなるため、同じ駅数だけ乗っていたとしても東京とは比べ物にならないほどに高くなる。その上、二人が行こうとしているキャンプ場はかなり先なのだ。

「あっ…やばい、私、残高700円しかない…!」星が短く悲鳴を上げた。

チャージをするための財布を探しているのか、ずっとバッグの中を漁っているが見つかりそうにない。そこで、空が偶々手にしていた千円札を二枚、運転手さんにチャージしてもらった。

「えっ、あっ、ありがとう」星はテンパっているようだったが、すかさず空がフォローを入れられたことが彼自身も嬉しかった。

二人でバスの座席に座ってからも、星はずっとバッグから財布を出そうと躍起になっていた。暫くして、星が「あった!」と叫び、淡いピンク色の小洒落た財布を出した。そして、如何にも彼女らしい、大人びた雰囲気を纏ったそれを開け、先ほどの2000円を空に渡そうとしたが「いや、良いよ」と彼は断った。

「え…なんで?」

「いや、だって、元はと言えば俺が勝手に星を誘ったんだもん。軽いプレゼントだと思ってくれればいいよ」

「そうだけど…、じゃあ、お言葉に甘えて…ありがと」

とだけ星はいい、それ以降、二人の間には思い沈黙の時がゆっくりと流れていった。

空はその間はずっと窓から見える銀世界を当てもなく眺めていた。ふと、

「ねぇ、何だかこの外の銀世界の歩道とか、誰かが書き忘れたスケッチみたいずあない?」と星に話しかけたが、まるっきり返答がない。そっと横を見ると、星は一定のリズムで微かな寝息を立てながら眠りに落ちていた。ここまででも東京からかなりの距離を移動してきたのだから仕方がない、羽根を休めることも大事だよな、と空は思った。

「次は上田〜、上田〜」

二人と運転手しか居ない空間に車内アナウンスが響き渡る。

「ほら、もうついちゃうよ、起きて」

そう言って星の体を何度かゆすると、漸く体を起こし、何度か目を擦った。

「うわぁ、もうこんなところまで来ちゃったんだ…」と彼女は驚きのような声をあげた。

既に日は傾き始め、白いはずの雪が微かに黄昏色に染まっている。如何にも山道らしい道路を、二人を乗せたバスは駆け上がって行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ