第七話 嵐のような騒がしさ
フィンが再び客間へと戻り、少しすると、
━━コンコン━━
「失礼いたします。フィン様、もうそろそろ祝宴のご用意が完了いたします」
「フィン様の準備もございますので、こちらへ」
もう見慣れた侍女が、フィンにそう伝えた。
「了解しました」
そう言って、フィンは少し身構えながら、侍女について行く。
ふぅ……良かったです。
さすがにさっきみたいに強引に連れられるようなことにはならなかったですね。
さっきはやはり国王様を待たせるわけにはいかなかったからなのでしょう。
にしても、もう少し優しく引っ張ってくれても良かったのではと思いますが……
そう安心したのも、束の間、客間から出た瞬間その侍女はフィンの右手を強く掴んだ。
え?
ちょ、え?
これって……もしかして……
そして、
「うわあああぁぁぁぁぁ!!!」
「やっぱりそうですよねえええぇぇぇぇ!!!」
「ほんとに僕ってぇぇぇぇ!!」
「客人ですかあああぁぁぁぁ!!!!」
侍女は、そのまま走り出した。
フィンを引きずりながら。
この侍女、絶対フィンで遊んでいる。
フィンが引きずられ連れてこられたのは、更衣の間だった。
どうやらここで、『勇者パーティ結成パーティー』にあった衣装にフィンを着替えさせるようだった。
にしてもやっぱり紛らわしい名前だな、適当につけやがって。
フィンは何人もの従者に手伝われながら、あっという間に着替え終わった。
その時だけは貴族になった気分だった。
しかしフィンは、これまでもこれからも着るはずのなかったその格式高い、宮廷礼装の窮屈さにどうにも落ち着かなかった。
フィンは着替えを手伝ってくれた方々に体を向けると、
「ありがとうごおおおぉぉぉぉ」
感謝を伝えることは出来なかった。
またしても奴に引っ張られていた、今度は服に傷がつかないように、しっかりと浮かせられながら。
次に連れていかれたのは、化粧の間だった。
そこでは宮廷礼装に合った髪型にセットされた。
フィンは、鏡を見て、それに映る自分がほんとに自分であるとは信じられなかった。
フィンは髪をセットしてくれた侍女に体を向けると、
「ありがとうごおおおぉぉぉぉ」
デジャブだった。
次に連れてこられたのは、控えの間だった。
ここでは、『勇者パーティけっs』もういいよ、長いし、その宴の簡単な説明を受けた。
初めに王様により勇者パーティの各人の紹介が行われ、その後、公の場で王から勇者パーティは正式に王命を賜る。
そして、晩餐会が始まる。
という流れらしい。
つまり、勇者パーティの方々と話せるのは、晩餐会後の立食会の時、ということである。
出来れば、王命を賜る前に一度話しておきたかったのですが……
まあ仕方ありません。
説明が終わると、ここまで案内してくれた、というか、引っ張ってきてくれた侍女は、
「それでは私は、ここまでですので」
「あ、ありが……」
フィンが感謝を伝えきる前に部屋から出ていった。
あ……
彼女はなんていうんでしょう。
すごく、せっかちなんでしょうね。
感謝ぐらいは聞いてからでもいいと思うのですが……
「それではご案内いたします」
彼女と交代した執事長が案内してくれるようだった。
「失礼はなかったでしょうか?」
「アリサは、少々くせが強いもので……悪い者ではないんですが……」
アリサとは、あの侍女さんの名前でしょうか?
「いえいえ、失礼なんてまったくです」
「仕事も早く、とても熱心に自分の仕事に取り組んでいるように見えました」
「彼女の両親も誇りに思っていると思います」
「本当にすごいです」
「いやはや、それは良かったです」
こうしてフィンの準備はひとまず整った。
次はいよいよ──勇者パーティとのご対面である。
フィンは執事長と雑談をしながら、会場へと向かった。
【キャラクター紹介】
■セラフィーナ・エル=ルヴェリエ
・年齢:29歳
・性別:女性
・種族:人族
・出身:エレジア王国ルヴェリエ公爵家
白銀の髪と薄青の瞳を持ち、宮廷用の礼装魔導服を優雅に着こなす美貌を持つ女性。
静かな微笑を絶やさず、その佇まいはまさに完璧な貴族の鑑である。
長い指先や所作の一つひとつからも、王族の縁戚にして公爵家の血筋であるという品格が滲み出ている。
固い意志を持つ彼女は、決して感情に流されることなく冷静に己の信念を貫く。
だが、目元の微かな柔らかさや、静かな笑みには、人知れぬ優しさが宿っている。
氷属性魔法の第一人者で、水と風の力を掛け合わせた結界術の研究に精通している。
王宮魔法士団の団長として宮廷政治にも通じ、内政派貴族たちからも厚い信頼を受ける。
その冷静沈着な判断力と卓越した知識は、時に若い魔法士たちの道標となる。
その姿は王国の誇りであり、努力と才覚の結晶である。
氷のように冷たくも氷よりも固い意志を持つ彼女は、今日もどこかで静かに微笑む。




