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勇者御一行様の案内係  作者: 丸もりお
第一章『エレジア王国旅記録』

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第五話 剣と魔法と、落とし穴

三大団の団長たちに励まされたあと、フィンは、訓練場へと足を運んでいた。

ここでは、王国騎士団に所属する騎士たちや宮廷魔法士団に所属する魔法士たちが、日々鍛練を積んでいる。

訓練場は、常に開放されていて、誰でも見学席で見学することが出来る。

フィンは今、その見学席から訓練の様子を眺めていた。

訓練場は、騎士たちの訓練する運動場と魔法士たちの訓練する魔法演習場に分かれている。

運動場の方では、重そうな鎧を着た騎士たちの素振りが行われていた。


━━いち、に、いち、に━━


男たちの大きな掛け声がフィンの座っている見学席の方まで聞こえてくる。

指笛で掛け声の合図を送っていたのは、さっきのユリウスだった。


おお、全員同じタイミングで剣を振っているだけなのに、すごい迫力です。

やはり、男性の職業だからでしょうか、掛け声にも威圧感があります。


エレジア王国内では、

騎士といえば男がなるもの、

医療魔術師といえば女がなるもの、

魔法士といえば才能のある奴がなるもの、

という根拠も裏付けもない「なんとなく」が当たり前のように根付いている。

それが、誰に教わったわけでもないのに、皆が当たり前のように口にする、見えない規範なのだ。


皆さん鎧を着ているのは、実際の戦場を想定しているためでしょうか。

よく見てみると、一部、剣の種類や振り方にも違いがありますね。


全体で見ると、皆、剣を同じように振っているように見える。

しかし、一人ずつよく見ると、騎士たちの剣の流派に違いがあるのか、人によって剣の振り方は様々であった。

騎士たちの多くは、腰から足元ほどまでの長さで、自分の体格にあった両刃のロングソードを振るっていたが、一部、珍しい剣を振るう者もいた。

その中でも圧倒的に目立っていたのは、大柄な体で、ほぼ身長と同じくらいの大剣を振るう者。

おそらく彼は、大団長ユリウスと同じ流派である。

しかし、フィンの目についたのは別の者だった。


あの子、身体も小さく、声も高い。

そのせいか、一瞬だけ、女の子かと見間違えてしまうところでした。

でも、騎士団にいるということは、きっと、まだ成人してないだけなんでしょう。


他の騎士と比べると小さく細い体で、少し反った片刃の剣を振るう者。

その小柄な体格のせいか、剣を振る動作も他の叩くような振り方ではなく、まさに、切るという振り方。

その美しさは、他の荒さから、心無しか浮いているようにも感じてくる。


剣の流派にはこれほどまで美しい流派も存在しているのですね。

勉強になります。


今まで剣に触れてこなかったフィンには、騎士たちのそのどれもが、印象的だった。


━━バーンッ!!━━


騎士たちの訓練を見ていたら、魔法演習場の方からすごい音がした。

音の方に目をやると、奥の方に置かれた岩のひとつから、大きく煙が上がっていた。


本来、魔法士の仕事は魔法の研究が中心である。

しかし、戦いの際に騎士たちを後方から魔法で援護するため、魔法士たちは非常事態に備え、定期的に魔法の鍛練をしている。

魔法士たちは、自分の向かいにある岩を狙って魔法を放ち、鍛練に励んでいる。

向かいの岩には対魔コーティングがなされており、よっぽどの魔法ではない限り、傷ひとつつかない。


つまり、煙が上がることすらも、珍しいのである。

おそらく、煙が上がった岩の向かいにいる赤い制服を着た魔法士がやったのだろう。

魔法士は男女問わず、長いローブに魔導帽を被っている。

フィンの方には、背を向けていたため、どんな人物なのかは見えなかった。

今度はしっかり見ようと、その魔法士がもう一度魔法を撃つことを期待したが、魔法士はすぐに演習場から戻ってしまったため、フィンが生でその魔法を見ることは叶わなかった。


すごい音でした。

この目で見たかったです。

大魔法……。


フィンは残念そうにしながら他の魔法士を見た。


おお、四属性それぞれの魔法士が訓練しています。


この世界には魔法が存在する。

基本四属性の火、水、土、風。

この基本四属性を複合することで使える複合属性。

希少な聖属性。

しかし、全員が魔法の適正がある訳ではなく、適正がないからと言って魔法が全く使えないわけでもない。

誰でも、生活魔法などの一部の初歩魔法は使えるのだ。

もっと言うと、適性があるからと言って、全ての属性が使えるわけでもない。

魔法適性がある人は通常、一つだけ適正属性があり、その属性の魔法が使える。

稀に、複数の適正がある者が現れる。

先程フィンに声をかけた、セラフィーナがその最たる例である。

そのため複合属性は、確認されてはいるものの、実際に使えるものは多くない。


フィンは、魔法適性が無いため、物珍しさに熱心にその様子を観察する。

赤い制服を着た魔法士が、魔法を使う。

演習場まで距離があったためか、詠唱をうまく聞き取ることは出来なかった。

すると、岩の少し手前で、火柱が噴き上げた。

狙いが外れたのだろうか。

しかし、外した当の本人はなぜか喜んでいる。


えっと……なんか当たってなかったような気がしたんですけど……

たぶん、魔法が難しいからですよね?

今の魔法はおそらく中級魔法でしたもんね?

多分当てることよりも、発動させることが目的だったんですよね?

もしもの時はその魔法をしっかり当てて、ちゃんとこの国を守ってくれますよね?


フィンは、無理やり自分を納得させた。

今度は青い制服を着た魔法士が、岩の上に水の球体を形成する。


あれは知っています。

師匠の得意な魔法でした。


《コラプス・デルージュ》

水属性の中級魔法。

対象の頭上に水の球体を形成し、落下とともに衝撃波を生み出す圧潰(あっかい)魔法。

主に生き物への攻撃として有効である。

応用して、落下のスピードを落とせば、対象を溺死させることも出来る。


その球体を急速に落下させて、岩へ落とす。


━━パーンッ━━


水の球体が弾けた。

魔法士は残念そうに肩を落とした。


うん、知ってましたけどね。

だってその魔法、生き物への攻撃魔法ですもん。

物質に当てても何も効果ないんですもん。

まあ、でも練習ですから。

大丈夫ですよ、生き物に当たってたら倒せてますよ、たぶん。

元気をだしてください。


フィンは心の中で励ました。

次に黄色の制服を着た魔法士が魔法を使った。


おお、穴が開きました。

落とし穴でしょうか。

………………何も起きないですよね、やっぱり。

でもこれ、地味に戦場では一番役に立つ魔法かもしれません。


フィンは、素直にそう思った。

最後に緑の制服を着た魔法士が、なにやら詠唱をした。


おお、あの魔法士、風をまといました。

おお!はやいです!


すると、すごい速さで岩へと近づき──

右手に持ったナイフで岩へ攻撃した。


……え?


そして、そのまま岩に弾かれて、隣の落とし穴に落ちていった。


……ほら、戦場だとちゃんと役に立ちました。


さっき落とし穴を作った、魔法士は、一瞬小さくガッツポーズしていた。


あ、今喜んでました。

あの黄色の方、落ちていった緑色の方になにか恨みでもあるんでしょうか。

魔法士も、色々大変なんですね。

みなさんも、頑張ってください。


フィンは、魔法士たちを心の中で応援した。

【魔法紹介:中級魔法】


今回の物語にも登場した中級魔法を、いくつかご紹介します。

実戦でも応用の幅が広い、使い手のセンスが問われる魔法ばかりです。


〇火属性魔法

《ラグナ・ファロス》

地面に火柱を噴き上げる広域攻撃魔法。

着弾点を任意に選べるが、制御には慣れが必要。暴発注意。


〇水属性魔法

《コラプス・デルージュ》

頭上に巨大な水球を生成し、落下とともに圧潰あっかいと衝撃を与える水撃魔法。

その質量で攻防どちらにも応用可能。


〇土属性魔法

《グラヴィス・クレフ》

足元に落とし穴を作る罠型の設置魔法。

内部はぬかるんだ泥状になっており、一度落ちると中々抜け出せない。


〇風属性魔法

《エアリアル・ミレトス》

一瞬の加速で、自身の移動速度を爆発的に上昇させる魔法。

逃走にも奇襲にも便利だが、持続時間はほんの数秒。


今後も、物語の中で登場する魔法たちを少しずつ紹介していけたらと思います。

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