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勇者御一行様の案内係  作者: 丸もりお
第一章『エレジア王国旅記録』

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第四話 彼等の名乗り

…フィンは、セリカと触れ合って、落ち着きを取り戻していた。

マイペースに飼い葉をむしゃむしゃと噛むセリカを首元を撫でながら、


「安心するよ、君はいつもどおりで」


まるでいつもどおりではないことが起きたように語るフィンを見て、セリカは心配していた。


━━ブルルン━━


いや、それは嘘、この馬は絶対心配してなどいない。


なぜ、こんなことになっているのか、時は数分前に遡る。


フィンは、再び客間へと案内されていた。

案内係がどんなことをするのか、勇者御一行様へ依頼された任務とは何なのか、具体的な内容は、今日の夜に行われる「勇者パーティ結成パーティー」で教えてもらえるらしい。

あのじじい、名前の付け方が単純すぎて普通なら腹が立ちそうなものだが、そんなことを気にしないフィンは、ある意味、人ができているのかもしれない。


━━コンコン━━


「失礼致します」

「フィン様、今夜の勇者パーティ結成パーティーが始まるまで、まだお時間がございます」

「それまで、王城の敷地内であればご自由にお過ごしくださいませ」


「わかりました。お気遣いありがとうございます」


フィンがそう答えると、侍女は深く一礼して、部屋から出ていった。


さて、セリカの様子も気になりますし、少し見て回ってみましょうか。

広すぎるので、迷ってしまいそうですけど。


フィンは、不安を感じながらも、客間という王侯貴族達の世界とは明らかに隔てられていたこの空間から、まるで異世界に足を踏み入れるかのような気持ちで、扉の向こうへと歩を進めた。


部屋を出ると、広く長い廊下につながっている。

この廊下は、様々な部屋へと繋がっており、貴族たちもよく通る場所であった。

もちろん、フィンも王城で働く多くの貴族達とすれ違っていた。

すれ違う貴族達の中には、平民であるフィンを見下し馬鹿にする者も少なくなかったが、一部、彼を気遣う者もいた。

ある貴族は、すれ違うフィンを見て、

「彼らと一緒に旅をするなんて可哀想に」

とあざけ笑い、

ある貴族は、フィンを見て、

「出来損ないが夢を見るな」

と酷い言葉をすれ違いざまに囁いた。

フィンがそんな王城に居づらさを感じ、王城の外へ出ようとしていた時、談笑と言うほどではないが会話をしている三大団の団長達とすれ違った。

彼らは、今までのフィンに名を教えることなどなかった貴族たちとは違い、まず先に名乗った。

一番先に名乗ったのは真ん中にいた灰色の髪をオールバックにまとめた大柄な男だった。


「王国騎士団長のユリウス・ディールハルトだ」


そう言って胸に右手を当て少し頭を下げた。

ディールハルト家と言えば、先の戦争で多大なる武勲をあげた侯爵家だ。

侯爵家とは、領土を持ち、エレジア王国内で五家しか存在しない武の名門貴族であり、唯一王国騎士団長を排出することが出来る貴族家のことである。

ユリウスは、現在のディールハルト家の当主の弟で、三男である。

彼は、その屈強な体と傷跡が物語る通り、先の戦争でディールハルト家が武勲をあげる理由となった男だった。

次に名乗ったのは、ユリウスの左隣を歩いていた、長くきめ細やかな白銀の髪に、薄青の瞳が特徴的な女性だった。


「セラフィーナ・エル=ルヴェリエです。宮廷魔法士団の団長を任されています」


ルヴェリエ家と言えば、公爵家として有名だ。

公爵家とは、エレジア王族の縁戚で、代々エレジア王国の政治の重役に就く、エレジア王国内に二家しかない、王族に次ぐ地位を持つ貴族家のことである。

セラフィーナは、現在のルヴェリエ家の当主の一人娘で、その美しい姿に似合う、風と水を複合した氷魔法を扱う魔法士であった。

最後に名乗ったのは、淡いラベンダー色の長髪を編み上げ、白と薄水色の清潔な術式ローブを着た内気そうな女性だった。


「あぁ…リュ、リュシエンヌ・フォン=カルディナですぅ。あ、あの……医療魔術師団長ですぅ」


こんなにも頼りなさそうに見えるが、実は彼女は伯爵家の次女で、宮廷内の医療制度改革を進めた立役者であり、魔術的手術や希少病への研究で王族からも厚い信頼を寄せられているすごい人なのである。


「……フィンと申します」

「このたびは、身に余るお役目を賜り、光栄に存じます」

「不慣れゆえ、至らぬ点があるかと存じますが、どうかご容赦ください」


フィンは少し戸惑いながらも右手を左胸にあてながらそう言って、上半身を軽く前に倒して一礼した。


「まあ、なんだ、その、頑張れ」


ユリウスは、右手を視線を落としているフィンの右肩に乗せながらそう告げた。


「頑張ってください」


「が、頑張ってくださいね……!」


他のふたりも、似たようにフィンに声を掛け、通り過ぎて行った。


まあ、簡単に言うと、フィンに向けて応援の声を掛けたのである。

フィンとは身分も立場も積み上げてきた名声も、何もかもがはるかに違う彼らがだ。


貴族ゆえに素直ではなかったが。

あんまりフィンに向けてその真意は伝わらなかったが。

いや、おそらく誰に向けても伝わらなかったであろうが。


しかし、その事実に、フィンは困惑を隠せなかった。


「……え?」


まさか僕に声をかけてくださるなんて、思っても見ませんでした。


三大団の団長が声を掛けたことに理由がないわけもなく、物語は進む。

【キャラクター紹介】

■ユリウス・ディールハルト

・年齢:41歳

・性別:男性

・種族:人族ヒューマン

・出身:エレジア王国ディールハルト侯爵家


灰色の髪をオールバックにまとめた、鋼のような体格の男。

無骨な鎧に身を包み、あごひげをたくわえた姿は、見る者に威圧感を与える。

だがその奥には、部下を信じ、守ることを何よりも大切にする、熱き心がある。


名門ディールハルト家の三男として生まれながらも、自ら前線に立ち続けた武人。

数々の戦場で功を立て、いまでは王国騎士団を率いる団長として、その背中で語る。


鋼の鎧に情を宿し、彼は今日もまた剣を振るう。

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