第十四話 ガヤガヤ、ザーザー、バタバタ
レオ達が、酒場で海鮮料理を食べていると、おそらく看板娘であろう店員が、
「あの方からです」
と言って、料理を運んできた。
『あの方』の方へ目を向けてみると、レオと同い歳くらいの少年が、こちらの方を笑顔で見ていた。
「あひあほう(ありがとう)!!」
「いいほは?(いいのか?)」
レオが料理に夢中になりながら、感謝を伝えると、
「あんまり、うまそうに食うもんだがらよぉ、こっちが勝手にもっと食べさせでぐなっただげだがら、気にすんな! (めっちゃおいしそうに食べているからさ、こっちが勝手にもっと食べさせたくなっちゃっただけだから、気にすんなよ!)」
レオは、口に入った食べ物を飲み込んでから、
「こっちで一緒に食べようぜ!!」
そうその少年に伝えた。
どうやら、この少年は、その若さで、造船職人であるという。
この近くの造船所で働いていて、すでに、何船も船を造っているらしい。
レオが「俺と同い年でもう船を造ってるなんてすげぇな」と声を漏らしていた。
リオも頷き、ツバキも感心していた。
やはり、同世代であるというのも大きいのか、その少年は、レオとリオの二人と、すぐに仲良くなっていた。
レオが、「俺たち、魔王を倒すために旅してんだ」と言うと、その少年は、驚いた様子だったが、だからといって、その少年が、レオ達への態度を改めることはなかった。
彼らにとっては、友達になったやつが、たまたますごい人だったというだけなのだ。
食事にひと段落がつくと、その少年は、「やべ、仕事に戻らなきゃ!!」と言って、何枚かの貨幣を卓に置いて、走って仕事へと戻っていった。
フィンが、それで足りなかった分だけ支払い、勇者御一行様方も、酒場を後にした。
また路地を抜けて、中央通りへ戻っていると、漁師たちの掛け声らしきものが聞こえてくる。
波の音、漁師たちの掛け声、造船職人たちのトンカチを打つ音。
それだけで、カイレアがとても陽気な町であるということが伝わってきた。
中央通りでは、やはりみな、何やら準備を続けている。
おなかを満たしたレオたちは、彼らが何の準備をしているのか気になっているようだった。
中年の男が、準備をする町民たちに指示を出している。
彼は、町民たちに相当頼りにされているようだ。
ひと段落がついたころ、フィンは、その男に聞いてみた。
「すみません、これは何の準備をしているんですか?」
するとその男は、驚いた様子で、
「なんだお前ら、そんなことも知らねぇでこの時期にこの町に来たのか?」
と言った。
そしてこう続けた。
「今はなぁ、『潮祭り』の準備をしてるんだよ」
その答えを聞いてフィンは、はっと思いだした。
『潮祭り』
毎年、カイレアで、一年のうち、潮位差が最も大きくなる時期に、行われている祭りである。
大海が、町の繁栄を支えてきてくれたことに感謝し、未来の更なる発展を願って行われている祭りだという。
潮位差が最も大きくなる時期は、漁師にとって豊漁の兆しであり、船の出入りも盛んになる。
だからこそ、その時期にこの町では海に感謝を捧げるのだ。
フィンは、そういえばそんな祭りがあると、初めてこの町に来た時に師匠から聞いたことがあった。
しかしフィンも、この時期にカイレアに来るのは初めてのため、気づかなかった。
「もう指示出しも終わったことだし、せっかくならどこで何の準備をしているのか案内してやろうか?」
「ああ、そういえば、名乗るのを忘れてた、俺は、今年の『潮祭り実行委員長』のブラガンだ」
ブラガンが名乗ったので、フィンも四人を紹介した。
「こちらも素性を明かしていませんでした」
「この方が、今代の勇者様の」
「レオだ」
フィンの前置きにレオが続けた。
「そして、この方が、せいj……」
「リオです」
リオがフィンの前置きを遮るように名乗った。
「そして、このおんぶしている方が、刃姫様です」
「ツバキです」
ツバキが照れくさそうに名乗った。
「そしてこのおんぶされている方が、賢者様の、」
「……むにゃむにゃ………」
「ユリシア様です」
ユリシアが眠っていて反応しなかったため、リオが代わりに続けた。
ブラガンはと言うと、開いた口が閉まるという動きを忘れていた。
なぜみんな、こういう反応をするのだろうか。
やはり、物語で聞く勇者パーティが目の前にいるからだろうか。
そして最後に、
「あと僕は、この方々の案内係をしている、フィンです」
と名乗った。
するとブラガンは、フィンの肩をつかんで、自分のもとに引き寄せ、耳元でこう言った。
「フィン君、こういう大事なことは早く言ってよ」
情けない声だった。
「すいません、聞かれなかったので……」
「聞かれなかったって、誰がこんな町に勇者パーティが来ると思うんだよ」
「すみません、以後気を付けます……」
「わかったならよし」
そう言うとブラガンはフィンを離して、
「それでは、私ブラガンが、勇者御一行様方を、丁重に案内させていただきます」
そう言った。
しかし、レオは急に態度が変わったブラガンに、
「ああ、俺、そういう扱いされるの慣れてないから、さっきの感じでいいぞ」
ブラガンは困り顔をしながら、
「そうおっしゃられましても……」
「いいっていいって!!」
するとブラガンはまたフィンを引き寄せて、
「フィン君、これ、俺さっきみたいにしてたら、国から終われたりしない?」
「……しないと思いますよ?」
「思いますって何!! 不安にさせる要素やめて!!」
「……しません」
「よし、言質はとったからな」
そして、また振り返り、
「よし、それじゃあ、案内をしていく」
こうして、ブラガンによる町の案内が始まった。
幸か不幸か、これが、勇者パーティが解決する一つ目の事件につながることも知らずに。
【キャラクター紹介】
■ツバキ・ミカゲ
・年齢:15歳
・性別:女性
・種族:人族
・出身:ミカゲ子爵家 (当時は伯爵家)
後ろで結った黒髪と、深紅の瞳を持つ少女。
かつて伯爵家として名を馳せた名門・ミカゲ家の末裔であり、一族に伝わる剣術を受け継ぐ天才剣士。
動きやすさを優先した軽めの生地を使った、紫色の袴風の戦装束。
上半身は短めの狩衣風の上着で、肩から腕あたりには家紋のような文様がついており、腰には黒の帯を締め、下半身は短いスカート風に仕立てている。
袖口から首元まで覆う黒いインナーと、足全体を覆うタイツを身につけ、脛には布巻を施している。
足袋と草鞋を合わせたような靴を履き、帯には父から贈られた刀を差す。
没落しかけの家の再興と、未来への希望を胸に刻む少女は、一子相伝の剣術をその身に宿し、今日もどこかで刀を振るう。




