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勇者御一行様の案内係  作者: 丸もりお
第一章『エレジア王国旅記録』

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第十一.五話 仲良くなろう会~それぞれの痛みを添えて~ 其の三

目を覚ましたユリシアに、ツバキが言った。


「次は、ユリシア様の番ですよ」


「え~、めんどくさいよぉ」


彼女は今、酒と昼寝を愛する自由人である。

結局、ユリシアは話すことを渋って、彼女の口から、何かを四人に話すことはなかった。


しかし、フィンだけは、ユリシアにどんな過去があるのか知っていた。

昨日の夜、フィンの部屋を訪ねてきた、老いた男から聞かせられたのだ。

あの男は、レイン家の執事で、ユリシアが生まれた時から、ずっと、ユリシアの御守をしていたのだという。


「あなたにだけでも、知っておいてもらいたいのです」


そう言う彼の、真剣で、でもどこか悲しそうな表情を見てしまったら、部屋から追い出すことはできなかった。


彼の話によると、

どうやら、ユリシアは、幼いころから、常人(人族の)を超える圧倒的な魔力を持っていたらしく、侯爵家という家柄も相まって、周りの大人たちから、過度に将来を期待されていたのだそうだ。

まだ、このころのユリシアは、真面目な性格であったため、その期待に応えるためにも、日々たゆまぬ努力を続けていた。

そのおかげか、とても優秀で、彼女こそが、これからのエレジアを引っ張っていくお方だと、誰もが口にしていたらしい。

だから、貴族の跡取りたちからも尊敬されていた。

そのうえ、未来を見込まれて、史上最年少で、宮廷魔法師団に入団。


レイン家の執事を名乗るその男は「当時のユリシア様には、私になど想像すらできないほど、プレッシャーがかかっていたことでしょう」と、呟いた。


そしてこう続けた。


「そんな時、ユリシア様に、ある問題が降りかかってきたのです」

「それは──」

「ユリシア様が、二十歳になられても、魔法の適正属性が発現することが無かったのです」


二十歳になっても、魔法の適正属性が発現しない。

これの何が、いけないのか。


この世界では、魔力を持つ誰しもが、絶対に二十歳になる前に、適正属性を発現させる。

例外は、存在しない。

そして、その適正属性にあった、属性魔法が使えるようになる。

でも、ユリシアは、その適正属性を持っていないし、これから先、適正属性を発現させることもない。

だから、ユリシアは、未来永劫、属性魔法を使えない。

ユリシアは、他に類を見ないほど、圧倒的な魔力を持っているのに、彼女の扱うことができる魔法は、生活魔法とただ魔力を飛ばして攻撃するだけの無属性魔法のみ。


才能にあふれ、周りから常に期待され、それに応えるために努力を欠かさなかったユリシア。

そんな彼女は、適正属性を持っていなかった、ただそれだけの理由で、周りの者たちみなに手のひら返しをされ、蔑まれ、彼女がこれまでしてきた努力もすべて無駄になってしまったんだ。


これだけのことがあって、心が壊れない人間はいるだろうか。

だから、彼女は、努力をやめた。

適正属性以外の全てを努力で自分の物にしたのに。

もう、誰にも期待されないように。

期待されるということがどんなつらいことか、彼女は知っているから。


これが、ユリシアが今の性格となってしまった、主な理由らしい。


でも、男は、こんなことも言っていた。


「彼女なら、他の道でも、おそらく成功していたでしょう」


と。

でも彼女は、それをしなかった。

彼女自身が、魔法を好きだから。

子供の頃に、魔法の先生に見せてもらった、あの綺麗な魔法が忘れられないから。

まだその気持ちだけは、捨てられなかったのだろう。




フィンが、まだ慣れないベッドの上で目をつむり、みんなの話を思い出す。


フィンは、『仲良くなろう会』で皆の話を聞いて、勇者と共に旅をすることになった彼らは、除け者たちの集まりであるということを理解した。


そして、勇者も、ただ一人、自分から名乗りを上げただけの、普通の少年であるということも知った。


フィンが初めて王城に行った時、勇者パーティ結成パーティーの時に気になった、周りの反応にも、全て合点がいった。


しかし同時に、痛みを知っている彼らだから、たったひとりでも勇気を出せる彼だからこそ、世界を救えるかもしれないと思った。


男性だけど、『医療魔術師』となった、アルバスの少年。

女性だけど、『騎士』となり、家族を胸に戦い続ける少女。

期待に押しつぶされようとも、自分の好きを貫こうとする少女。

自分の命を懸けてでも、家族を守ろうとする、勇気と優しい心を持った少年。


アルバスの青年も、異質な少女も、期待外れの才女も、たった一人の勇気ある少年も。

初めから、皆、戦っていた。

強い心を持っていた。

いくら周りから批判されようとも、自分を、誰かを守るために、戦っていた。

今は、確かに、馬鹿にされているかもしれない。

酷い扱いを受けているかもしれない。

それでも、彼らなら、世界を救うことができる。

フィンは、そんな気がしながら、眠りについた。



俺は、なんでそんな扱いを受けたのに、守ろうとしてんの?って思ってるけどね?

皆もそう思うでしょ?

でも、もしかしたら、そう思わない彼らだからこそ、世界を守れるのかもしれないなぁ。



フィンは、その日、酒癖大魔神のユリシアを、ツバキと二人で何とか退治する夢を見ていた。


次の日の朝、勇者御一行様は、武器屋のおっちゃんから、打ち直したレオの剣を受け取り、王都ゼストスを出発したのだった。


「フィン、最初はどこに向かうんだ?」


レオの質問にフィンが答えた。


「それでは、行きましょう」

「『港町カイレア』へ」

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