助け合い
電話に出た片倉さんは、今の状況を早口で説明する僕を、どうにか落ち着かせると、状況整理をしてくれた。
「つまり、酒井くんは繁華街にある怪しいショットバーに入って、ハニートラップの被害に遭った、と。
そんでもって、バー代として一千万円支払うように脅された挙句、酒井くんが“片思い”している私の命も脅した……そういうこと、なんだよね」
「うん、そうなんだ」
「……片思い、ね」
……?
奇妙な違和感。けれど、その違和感の正体が分からない。
しかし、それは片倉さんが恥ずかしそうに教えてくれた。
「私のこと……好き、なんだね」
「あっ……僕ったら、そんなこともきみに言っていたのか」
「だよ」
まるで覚えていない。
これだから、正気を失った人間は恐ろしい。
羞恥心よりも性的興奮が勝り、僕は言い知れぬ高揚感を覚えた。
「それはそうと、酒井くんと話すの、高校の卒業式以来だから……七年ぶりになるね」
そういえば、そうであった。
冷静とは無縁の状態で電話をかけたものだから、そんなことは一切考えずに早口で話していた。
「そうだね。……というか、いきなり電話かけてしまって、なんだかごめんよ。迷惑だっただろう?」
「あ、それはいいのいいの。だって、始業時間前だしね」
「そっか、それなら良かった」
「どこの……ショットバーに行ったの?」
緊迫した片倉さんの声。
緊張のため、僕は震える声で答えた。
「いや、それがバーにフラッと入ったから、店名までは覚えていなくて」
「K駅の繁華街で、ラーメン屋が続けて二軒あるところの……バー?」
絶句。
「そ、そうだけど」
「……やっぱり」
やはり悪名轟くバーなのだろう、と僕は察した。
「ねえ、片倉さん……言いづらいんだけど、その、僕からお願いが――」
「分かってる。……酒井くんのピンチもそうだけど、私の命も危ういことだし、ここはお互い助け合おうよ」
「ありがとう、片倉さん……!」
「どういたしまして。――じゃあ、今日の夜六時半、私の職場近くのM駅前にある居酒屋『フクロウ』で話さない? 予定、空いてるかな」
無職の自分に予定などない。
僕は即座に「大丈夫」と返事をした。
「そう、分かった。――あっ、そろそろ始業時間みたい」
「分かった。ありがとう、電話に出てくれて」
「ううん、こちらこそ私のことを気にしてくれて、ありがとね」
またね、という彼女の挨拶のすぐあと、電話は切れた。




