ジャッジメントの時
二度目のチャイム、三度目のチャイム……。
四度目、五度目。
六度目……。
僕はそろそろと手を挙げた。
「あのう、客人が来たんだ。入れてやってくれ」
心なしか、レイナさんの顔色は悪かった。
「レイナさん……?」
「マジメな話なんですけどね」
「うん」
「昨日お酒を飲みすぎて、二日酔いで嘔吐しそうです……うっ」
「ささっ、お手洗いはこちらですぞ」
好機とばかり、僕はレイナさんの手を引き、彼女をトイレに案内する。
レイナさんはトイレに入るなり、便器に顔を突っこむようにしていたが、思い出したかのようにトイレの扉を乱暴に閉めた。
「ゴミの分際で、何を堂々と見ようとしているんですか……?
ドアホンじゃないから分からないんですけども、もしかしたらサツかも。
玄関の扉は絶対に開けないでくださいです……絶対に」
「ああ、そんなことは分かってるとも」
僕はうなずきながら、玄関の扉を開いた。
「あっ、やっぱりお前か」
「おはよう、こんにちは、こんばんは。ハニートラップにかかった気分はどうですか」
「余計なお世話だよ」
「否、余計なお世話というのは、ワタシが言うべき言葉でして。
ワタシはアナタのような余計なトラブルを巻き起こす人のことを、やれやれ、と愚痴とヨダレをこぼしながら世話してやるのが役割なのでして。
ですから、アナタのようなトラブルメーカーを見捨てるなど、論外中の論外!
……ちゃんと今回も、アナタがしでかした悪行の尻拭いはさせてもらいますよ」
「やっぱりお前のような奇妙な奴は、この世界には貴重なのかもしれない。まあ、入れよ」
「ありがたき幸せ」
案の定、チャイムを何度も何度も鳴らしていたのは、僕の友人である山崎幸威だった。
幸威は玄関に入ると、堂々とトイレの扉を開けた。
そこには嘔吐の苦しみを絶賛体験中のレイナさんがいて……僕は声にならない悲鳴を上げた。
「おはよう! こんにちは? こんばんは……どうかお元気で」
「うっ……!」
レイナさんの口から虹が放射される。
幸威は「南無阿弥陀仏……」と合掌してから、トイレの扉を静かに閉めた。
「幸威……」
「修哉さん、彼女はどこの誰です?」
「例のハニトラの彼女、だよ」
「ハニトラの仕掛け人……えっ、この世界で一番哀れな彼女がですか?」
確認のためか、もう一度トイレの扉を開けようとしたので、さすがに僕は幸威の暴挙を止めた。
「ノー! ワタシを止めるなど、なんという不可解。そうですとも、不可解ならば、理解させればいいだけの話……さあ、対話のお時間です」
「外道か、お前は」
「果たして、世間でいう外道はどちらでしょうかね。この無遠慮なワタシか、ハニートラップを仕掛けた彼女か、はたまた彼女にわいせつなことをしたアナタか……どうやらジャッジメントの時が来たようです」
「やめてくれ。彼女のついた嘘を真実に近づけるような真似は、もう二度としないでくれ」
「それでもジャッジメントはしなければいけないのですよ、修哉さん」
僕の肩に手を置く幸威の言葉は、残念ながら何も響かなかった。