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唯一無二のスリルガール  作者: 最上優矢
第一章 スリルガールとの出会い
4/5

請求書

 意識を取り戻したとき、僕は賃貸マンションの自宅、四階にある六畳部屋の布団に横になっていた。


 現状把握もままならない中、僕がまずしたことといえば、口元のヨダレを拭くことだった。


「どんなときも冷静に。うん、冷静に。さて……寝るか」

「それは冷静なんかじゃなくて、ただ呑気なだけではないんです……?」


 僕が枕の位置を調整したところで、聞き覚えのある声の高い女性の声がベランダからした。

 ハッとベランダに目を向けると、奇妙なバーの常連客、レイナさんが手にライターを何本も持ったまま、ドン引きしたような顔をしてベランダに立っていた。


 すでにレイナさんはドレスからパーカーとショートパンツに着替えていて、それがなおさら僕をギョッとさせた。


 どういう経緯でレイナさんはここにいるのだろう。

 そもそも彼女はなぜベランダにいるのか、それにどうしてライターを必要以上に持っているのか。


「何を……しているのか、教えてもらっていいかな」

「えっ……見れば分かりますよね?」

「だから何をしているって?」

「いや……だからこうやって――えいっ!」


 レイナさんはライターの一本を――あろうことか、四階から地上に投げ落とした!


「あぁ!」


 僕の悲鳴から間もなくして――運動会などでお目にかかるスターターピストルのような破裂音が轟いた。


「わーい♪ ちゃんと爆発しましたです」

「爆発……被害状況は?」

「道端で拾ったライター一本なのです☆彡」

「やめてくれよ、頼むから……」

「二本目、いきますです?」

「やめてくれ!」


 僕は四つん這いになってベランダまで近づくと、ヨロヨロと立ち上がってベランダに素足で降り、レイナさんからライターを奪おうとした。

 いくつかライターが、ベランダの床に散らばる。


 悲鳴を上げるレイナさん。


 そのとき初めて、僕はレイナさんから怒りを買ったのだろう、レイナさんは一本のライター以外はすべてベランダに落とすと、なんとそのライターを着火し、僕の手を標的に反撃したのだ。


「熱っ!」


 たまらず僕はベランダから部屋に逃げこんだ。

 ライターの火が当たった指を一瞥してから、僕は不機嫌そうな様子のレイナさんを凝視する。


 レイナさんは膨れっ面になると、まるで静止した僕が悪いかのように「せっかく遊んでいたのに……もうっ! 邪魔はダメなのです」と言い、こちらにライターを向けてきた。


 そのとき、ようやく僕は状況を飲みこめてきた。


「……まさか、きみ。いや、というかそもそも……これがハニートラップに遭う、ということ?」


 レイナさんはライターを僕のほうに放り投げると、ベランダから部屋に戻り、掃き出し窓を乱暴に閉めた。


「ご想像にお任せしますです。特に私は何も悪いことはしていませんから。それに……そもそも私たち、取引しましたよね?」

「取引って」

「この世界を刺激的で面白い世界に変えること――あなたが私に提示した条件は、それ。

 私があなたに提示した条件は、私と遊ぶこと。

 それぞれの条件を互いが飲んだ時点で、私たちのあいだでは取引が成立したのです♪」

「……?」

「分かりましたです?」


 僕は鼻で笑うと、「うん、分かってる。要は、最近のハニトラはレベルが低いんだよね」とわざとレイナさんを煽った。


 案の定、レイナさんは怒りをあらわにし、自分のトートバッグと思われるものからスマートフォン(バーのときに使っていたものとは別の端末)を取り出すと、一枚の請求書のような画像を見せつけてきた。


 下手くそな字と数字で埋め尽くされていて、最後に書かれていたのは「合計一千万円」という文字。


「これ、バーの請求書、です」

「……そ、そんな偽りだらけの請求書、ドブにでも捨ててしまえ!」

「そんなことをしたら、あなたの死体が東京湾に沈められますです」

「怖っ」


 レイナさんはニコッとほほ笑む。


「そうなりたくなければ、期日内までに絶対に払ってくださいです♪」

「一千万円を……期日内に払う?」

「無理ですよね」

「無理です」


 僕は涙目になり、首を何度も横に振った。


「なら、どうします?」

「ど、どうしましょう……?」

「答えは簡単です」

「そうか、なら良かった」

「修哉さんの友人のみなさんに、一千万円を払ってもらうのです♪」

「ふむ……!」


 顎に手を当て、考えるふりをし、青ざめる僕。


「もうすでに、修哉さんの携帯のSNSソーシャルネットワークサービスに登録されているおバカそうな友人さんに、私からチャット送りましたです♪」

「ほう……」


 顔を上げた僕の表情を見て、レイナさんはにんまりと笑った。


「もうすぐかな、一人目のおバカさんがお金を持って現れますです♪」

「それって、あいつのことかな……まあいいや、それはさておき――警察とかに相談すればいいか、このこと」


 レイナさんは指を左右に振った。


「だ・か・ら、それはやってはいけないルールなんですってば。――私たちは取引をした。それなら、それに則って動かないといけませんよね?」

「……その取引は絶対じゃないし、ただの口約束に過ぎない。なんの効力も持たない」

「さあ、どうでしょう?」


 次にレイナさんが見せてきた画像には――ショッキングな画像が。


「……これ、僕?」

「はいです♪」

「でも、僕はきみにそんなわいせつなこと、してないよ……?」

「もちろん、加工写真です。私もあなたから実際にそんなことをされたら、ただでは済ませませんし」

「……なんで、よりにもよって僕を狙ったの?」


 レイナさんは首をかしげると、ケラケラと笑い出す。


「何がおかしい」

「だってぇ、修哉さんったら、自分からあのバーに入ってきたくせして、よく言うなぁ、って思って。

 ……自己防衛できなかったあなたがすべて悪いです」

「そんな……殺生な!」


 そのとき、この1DKダイニングキッチンの部屋に、チャイムが鳴り響いた。

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