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唯一無二のスリルガール  作者: 最上優矢
第一章 スリルガールとの出会い
3/5

取引成立

 中年の男性バーテンダーに早口でお酒をオーダーするレイナさん。


「彼にカルア・ミルクを。私には、アイ・オープナーを。――あれ、席に座らないのです?」

「……座るとも」


 僕はレイナさんの隣のカウンター席にぎくしゃくと座った。

 その僕の顔を、レイナさんは覗きこんだ。

 僕はたじろいだ。


 緊張しまくりの僕をさらに追い詰める気か、この子は。


「……何?」

「きみ、何歳?」


 隠す必要もないので、僕は素直に自分の年齢を打ち明けた。


「二十五歳だけど」

「……二十五」

「うん」


 レイナさんは我を失ったかのように、首をブルブルと震わせ、「そんなはず……そんなはず」と繰り返しブツブツとつぶやいていた。


 うーん。


「もっと年上かと思っていたの?」

「逆。年下かと思っていたんですけど……」

「……そう」


 気まずさを感じるも、僕は吹っ切れて、今度はレイナさんに年齢を聞いてみた。


「そういうきみは、何歳なの?」

「二十三歳です☆彡」


 今度は語尾に星が流れた気がするが、まあ気のせいだろう。


「お名前、なんていうのです?」


 今度はレイナさんから名前を聞かれた。

 僕はスラックスのポケットからスマホを取り出し、メモ帳を使って自分の名前を漢字とともに教えた。


酒井修哉さかい・しゅうやさん……です?」

「うん」

「修哉さんには、何か願いはあります?」

「願い?」

「はい。……その願い、必ず私が叶えますから」


 気の弱そうなレイナさんの目に――真っ赤な炎が宿る。

 それと同時に、僕の手の甲にレイナさんの掌が重ねられ――思考停止。


 と、そのとき、バーテンダーがオーダーされたカクテルをテーブルにそっと置いた。


 その瞬間、レイナさんの顔が怒りで真っ赤に染まった。


「おい、クソバーテンダー」

「な、なんでしょう」

「水よこせ」

「はあ」

「ぐうたらするな、ぐうたらバーテンダー」

「ただいまお持ちしますとも」


 レイナさんはバーテンダーから水が入れられたグラスをひったくるなり、その水をバーテンダーにぶっかけた。


「……まだ酔ってもいないのに、酒癖の悪いお人だ」


 水をぶっかけられ、苦笑するバーテンダー。


 レイナさんはグラスを出入口のドアに勢いよく投げ、派手にグラスを割った。


「……レイナさん」


 僕が呼びかけると、レイナさんはきょとんとした顔で椅子に座った。


「どうかしました? 怯えることはないですから。心を楽にして、リラックスでもしましょう」


 僕はテーブルを拳で叩いた。


「この酷く退屈な世界。……貴女なら、この世界を刺激的で面白い世界に変えること、できるよね。

 なら叶えてほしい、この僕の悲願を」


 レイナさんの目に闇の炎が宿ったかと思えば、彼女はニッコリと薄気味悪くほほ笑んだ。


「いいですよ。……でもその代わり、あなたも私の言うことを聞いてくださいです」

「貴女の言うことを聞くって……?」


 そのとき初めて、レイナさんは不透明な黄色のアイ・オープナーと呼ばれるカクテルが入ったグラスに手を伸ばし、それを一気に喉に流しこんだ。


 官能的な飲み方。


 僕は自分に出された琥珀色のカルア・ミルクと呼ばれるカクテルのグラスを恐る恐る手で持つと、グラスに口を付けて何口か飲んだ。


 甘いカフェオレの味。


 なんだろう、急激に眠くなってきた。


 わざとらしくレイナさんは息を吸うと、先ほど僕がした質問に答えた。

 僕の瞳を見すえながら。


「私と。遊んで、ください」

「うん……」

「やったー! 取引、成立ですね♪」


 急激に僕の意識が薄れ始める。

 ダメだ、と思ったときには、すでに僕は顔をテーブルに付けていた。


 力が入らない、これでは意識を失ってしまう。

 あぁ、ダメだ。意識が……。

 …………。

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